その隣に立っているアルベルトは当然何が何だか分からず、
「なにがどうしたんですか?」
聞くと、曲げてない脚の膝に手を置くと同時に見上げて、
「サーカスだよ」
「サーカス?」
「そこからそっと見るんだぞ。そっとな」
そう言われて壁側からソッと覗く。
ディスの言う通り、色とりどりのサーカスのような集団がゾロゾロと行進している。
「お前、最近あれにかかわったそうじゃねぇか、撃退したんだろ?そこの家さ」
そう言われて思い出す。
「来いとか言われたんだろ」
「えぇ。でも舞踏会でもはや知られているのでは」
「そうでも堂々と出たら持って行って下さいと言ってるのと同じだろ」
確かに間違いではない。
「あの方たちは一体?」
「ここ何年かばかりにのし上がった、成り上がりの金持ちだ」
忌々しそうに話しだす。
「いいか、買い物は買い物でも使用人の買い物。あいつらはどんな手段を使っても持ちかえるような連中だ。あれに目
をつけられたら最後、あそこの仲間入りだ」
「どうしてそのような事を?」
「良家の使用人は貴重品と同じぐらい価値があるんだと。その家で培ってきた品性、とでも言うのかな。
俺たちの世界じゃ嫌悪と恐れでしかねぇ。来た時はな、優秀でないふりをしないと持っていかれるから、おのおの事
前策を取っているが、それでも口コミでやられる場合もあるし。まったく、あれでどれだけの家がひどい目にあった事
か。俺たちの家も」
と言った瞬間、ハッとして口をふさぎ、目をそらす。
「ディス」
「・・・・」
「話してください」
それに観念したかのように、
「あ〜あ」
頭をガシガシして、
「買われた・・・・と言うより、買ってもらったと言った方がいいか」
口を切った。
「ちょうど一年前。先代が急死して間もなかった。突然の事で先代の執事が倒れてそれ以降動けなくなった代わりに教
育していた執事がこなしていてよ、それからちょうど半年ぐらいか、あいつらがやってきて欲しいと言いだすもんだか
ら、何を言ってるんだと突っぱねるかと思ったら、自ら出向いてったよ。
「自分の能力を買ってもらえるなんてなんて光栄だって。
その時のあの態度は忘れられねぇな。
それよりも信じていたご主人様の方が傷ついただろうな。さよならの一つもなしだ。長い年月一緒にいながら、あん
な結末はねぇよな。それがショックで先代の執事が死んだのも同じだ。
奥さまも相当で、リィ様を連れて別荘で静養するほどにまでなっちまった」
話半ばから忌々しい顔をした。
「だからご主人様そのまま執事を雇わず、部屋に籠ってしまったのですか」
「その前に先代が病で亡くなって、まだ落ち着いてない状態も原因の一つだろうな。それにこれが積み重なった結果だ。
雇わないのだってまたやられてしまうって考えだったんだろよ」
立ち上がって片手で土ぼこりを払う。
「さて、いなくなったな。帰るか」
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