軽いセレモニーが終わり、しばらくしてルゥは親しい友人に声をかけられ会話を交わすと、その執事は少し離れた後
方に下がってその様子を眺める。すると後ろから肩を叩かれ、振り向くと、この会場には不釣り合いな強面の集団がい
た。

「ちょっと来てもらいたい」
 そう言われ、振り返って、
「申し訳ございません。主人のそばを離れるわけにはまいりませんので。それにご用件でしたらここで申されても」
 と、言った半ばではあるが、相手がそれを認める雰囲気ではないのを察し、
「わかりました」
 廊下のフロアへと一緒に移動する。相手側が間合いを広げ、
「それで何用でしょうか?」
「俺たちの主があんたをご所望だ。知ってるだろう、最近ちまたで有名なあれだよ。あれ」
 と自慢げに言うが、記憶がない彼は、
「申し訳ございません。それに私はそういう噂は耳にした事がありません」
 応える。それに“はぁ”と大げさにあきれた集団の一人が、
「てめっ、しらばっくれる気か。これだけ巷を騒がしているのに、話の早い執事が知らないはずはない」
「ですから」
「まぁいい、強引にでも連れて行く」
 腕をつかんだ瞬間、その手を内側から半回転で振りほどく。

「てめぇ、やろうってのか」
 と言ったが、その執事は振りほどいた手を驚いた表情で見ていた。

 だがそうこうしているうちに相手側からかかってきた。

 2人は左右に打ち払い、左足のかかと部分で3人目の首の左側に引っ掛けてなぎ倒し、後から来た4人目をかけた左
足が地についたと同時に今度は右足で5人目の首を再び引っ掛け、半転の遠心力を使い、叩き伏せると同時にそのまま
ターンしてやる前の位置に戻る。まるで踊るかのように鮮やかにあしらった。

 最後の一人が地べたに直撃したのと同時にルゥがその場にやってきた。気がつけば辺りに野次馬が出来上がり、最後
の一人を倒した時、歓声が上がっていた。

 それにハッと我に返るかのようにあたりを見渡し、通路を用意されたルゥの前にひざまずき、
「申し訳ございません。このような事をするつもりは」
 謝ると、ルゥは気にする事もなく、
「でも連れて行かれそうになったんでしょ」
「はい」
「断ったのに連れて行こうとしたのが悪いんだからいいじゃない。もし言ってきたらしつけなおしとでも言っておくよ」
 返した。

「ですがそれではご主人様に迷惑が」
「いいよ。それより帰るよ」
 振り返ってきた道を引き返す。もうこれで話はおしまいという風に。



「所でお名前は?」

「名前は――――」


「アルベルト」

 名前。

「はい」

 なぜ臨時の執事にここまでしたか。

それは僕が正式に雇うと決めたから。
 彼が僕にしてくれる事すべてに対し、誰にも負けないあるものが暗闇にいた僕に響いて鳥かごから出してくれた。
 いずれ来るであろう邂逅のその日まで。共にいたい、僕はそう思った。


 その後、やられた集団はというと主の元へと戻り、事の詳細を伝えると、
「打ちのめされた揚句、のこのこ帰ってきたのかっ!この馬鹿っ」
 鞭で引っぱたかれ、ルゥと年齢が変わらない者に叱責を受けていた。

「申し訳ございません」

「で、どこの屋敷の執事だそれは?」

「それが」

「エンブレムをつけてないだと、馬鹿な。どこの世界にエンブレムをつけてない執事がいるんだ。見落としたんじゃな
いのかっ!」
 
 それに集団は互いの表情を見合わせるが、誰もが首を振る。それは――――

「もういい、名前はなんて言うんだ」

誰もが自分の事でいっぱいいっぱいで、

「・・・・申し訳ございません」

全く聞いていなかったのだ。

 それに再びバチンと鞭を振り鳴らす。先ほどよりも音が大きい。それにビクッとした使用人に、
「何ら情報を得ることなくこのざまで帰ってくるとは・・・・、今度こんな失態をしてみろ、どうなるかわかっている
だろうなっ!」
 威圧をかける。

「はいっ!今度こそは」

(この腕のいい奴らを追い払うほどの執事か・・・・・)

「ますます欲しいな。その執事」
 口元を怪しく笑わせた。




Copyright.(c)2008-2009. yuki sakaki All rights reserved.