「あの親子は社交界に出れる身分だからそう言ったうわさを流しやすい。会話に飢えてる人間が多いからな。
特に地方とかは。それにそうでない人間でも耳に入る。まして子供とかはしゃべりが多いからすぐに回る。
そこで切り離す土台を作る。商品で病院に行ったとか、影で物を言ってたとか、根の葉もない事もここでは通用する。
一度社交界を敵に回したら何もできなくなる。何をやっても一度回ったものはなかなかひっくり返せない。
シーズンが終わったら各地に戻るからその地でも言われてよけいややこしくなる。
社交界の事を知っていれば回避できるが、知らないとこうなる。ちょろいもんだよ。
――――で、これは予想外だったんだけど、あのガキ。ほら解毒剤で苦しんでた奴」
「お知り合いの方だとは思いませんでした」
「あいつさ、オイシイ話があるとすぐ飛びついてたまに痛い目にあってるんだよな。
そのたびにばぁさんが面倒みてくれるんだけど。まさかあの家にいるとは聞いてなかったぜ。
でも今回ので懲りたんじゃないか。副作用であぁなるとは聞いてなかったんだってよ。
ばぁさんが言ってた、あの薬はな、市販や処方された薬とか飲まされると逆効果で悪化するんだって。
で、あのガキ、薬のパラフィン紙を見た時にそれがばぁさんのだとわかって、あの家の屋敷に行く前に
ばぁさんちに行って、事の詳細を聞いたあと、その屋敷に行って、あの執事にしがみついてマスターキーの型を
手に持っていた粘土で型を取って、じぃさんに思いっきりぶつかって型と家の間取りを渡したんだと。
あんたに助けられた感謝と聞かされてなかった復讐だなこれは」
『もう一度やらせて下さいっ!今度はしくじりませんからっ!』
「所であいつどうしてる?」
「お仕事してますよ」
「いつまでもつかなぁ」
からからと笑う。
『じぃさんはだいたい本屋にいる。そこで本の位置が高くて困ってる。その本を取って渡せ。多くな』
「おお、すみませんなぁ」
『――――んで、じぃさんがあんたがいる別荘にあの家からの手紙として送る』
書き終わったのか封筒に入れ、
「これを頼むよ」
差し出す。
「んでもって予想していたものが来た」
「予想していたもの?」
「あぁ。前々から聞いてたんだ。使用人に保険金かけてるかもしれないって。案の定ドンピシャ。そのなか用心のためにと
仕事が終わると錠をかけるようになった。使用人たちは人身売買されるのんじゃないかと不安になる。
その錠のカギはそのマスターキー。屋敷を作る際に普段使わないからそれですませたんだろう。それがあだとなした
わけだ。で、そこに――――」
「上手いこと言いますね。あ、配達するものはありますか?」
「そうじゃった、これを頼むよ」
「じぃさんが今度はそのネックレス型の箱をあの郵便屋に渡す」
「誰のプレゼントですか?」
「孫へのプレゼントじゃよ。喜ぶ顔が目に浮かぶのぉ」
「そうですか、では」
「で、早朝にその郵便屋がその家に行く」
「失礼しまーす」
ドアを開けて辺りを見渡す。この時間帯はもう起きていてもおかしくないはず。
それを見て郵便屋は――――
『予想どうりだな』
口元を怪しく笑わせ、あの老人から渡された箱をひも解く。
「その箱にはあの方で造られたマスターキーと間取りが入ってる。多く渡せと言ったのはその郵便屋の分だ。
で、その郵便屋は地下に行って錠を開ける。その時に部屋を順次ノックしていく」
「気づかれなかったのですか?」
それに指を立ててわずかに揺らし、
「そこはぬかりない。あのガキ、あの執事がいつも飲む薬を睡眠薬とすり替えてたんだ。それもじぃさんにぶつかった
ついでに言って郵便屋に伝えられてた。もちあの夫婦もな。薬を飲まないあいつは枕に睡眠作用のある芳香を枕に吹き
つけた。おかげでぐっすりで音を立てようが起きない。
それにさすが郵便屋だけあって俊足で、間取りなんて地図を見るのと同じで一回見ればそれですむ。
――――で、それからホールに戻ってパンパンと手を3回たたいて響かせて」
同じように叩き、
「すいませーん」
大声では言わず、そのフリをする。
「なんて言ったら一斉だ。使用人たちが風のように抜け出た後、あの郵便屋、そのあと起きた人間がどんな顔をするか
と思ったら笑いが止まらなかったんだと。俺も同じだよ。じぃさんも上手い事いうぜ、
『孫へのプレゼントじゃよ。喜ぶ顔が目に浮かぶのぉ』
なーんて、ずいぶんな皮肉だよな。あっちからしたら最悪のプレゼントなのによ」
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