街・公園内――――
「こんにちは」
郵便屋が老人に声をかける。
「やぁ」
「凄い噂になってますねぇ。どこに行ってもひっきりなしですよ。あれだけ有名な家でしたからねぇ」
「驕れるもの久しからずと言った所じゃな」
街ではその話しで持ちきりだった。
「上手いこと言いますね。あ、配達するものはありますか?」
「そうじゃった、これを頼むよ」
老人は長方形の箱を差し出す。
「誰のプレゼントですか?」
「孫へのプレゼントじゃよ。喜ぶ顔が目に浮かぶのぉ」
「そうですか、では」
翌朝――――
「♪〜」
朝一番にその郵便屋はスイスイと自転車を飛ばし、ある屋敷へとたどり着く。とても静かだ。
自転車を降りて止め、片手に郵便物を持ってドアノブを回し、
「失礼しまーす」
ドアを開けて辺りを見渡す。この時間帯はもう起きていてもおかしくないはず。
それを見て郵便屋は――――
翌朝――――
「おいっ!」
ディスが再び戻ってきたアルベルトを使用人室へと引っ張りこんだ。
「どうしました?」
「どうしましたじゃねぇよ、これ」
新聞を前の時と同じように見せる。
内容は、屋敷の使用人たちが逃げ出したとある。しかも各自の屋敷へ戻っているとのこと。無理やり連れて来られたので
各屋敷は暖かく迎え入れられているとのこと。こうなる以前から付き従ってきた使用人たちもその手を借りて入る事が出来たと
書いてある。
取材を受けた郵便屋はあのあと心配して、
「すいませーん!」
声を出したらものすごい勢いで滝の流れのように使用人たちがゴバッと郵便屋を通り抜けたらしい。
「やっぱり人身売買を恐れての事だったんじゃないですか」
「でもどうして全員でしたんだろう」
「一人より大勢の方がいいって事もあるだろ」
「確かに」
それから――――
いつものようにワゴンを引いてアルベルトは戻ってきた。だが今日は冴えわたるほど静かだ。
アルベルトは使用人室に入ると、みな新聞を見て絶句していた。
「どうしました」
今度はアルベルト自身が輪の中に入ってディスの肩の横から新聞を覗く。それに目を見張った。
あの執事が殺されたのだ。キャンブリー家の主に。
どうやら多額の保険金をかけていた様だ。あの執事にというなら使用人もそう言う事になる。だがそれが逃げ出した。
逃げ出した使用人がその日の仕事が終わると部屋に錠を掛けられていたと証言したことから、人身売買よりも恐ろしい
保険金で殺される所だったのだ。
ここでならそれに対して「ざまぁみろ」と言う所だ。しかし、万が一にもないが、もし自分がそうだったらと考えたら
背筋が凍って絶句する方に軍配が上がる。家畜がつぶされる順番を待ってるような感覚と言った所だ。
だがその家畜でさえ自分の最後を悟るのと同じで、それが人間ならもっと悟る。だが中にはまれに「それはない」と
いう思考の持ち主もいる。まさに殺された執事がそう言う事になる。
当主はあたかも誰かが入って来てかばうために殺されたと、偽装殺人を企て警察に通報した所、あっさりとばれてしま
い、当主は逮捕。翌日、簡易裁判の後に射殺された。遺体は共同墓地へ、その日に死んだ者たちと埋められたという。
それ以降、新聞には載る事はなかった。
それから街は冬を迎えた。
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