それから馬車で街に下り、公園を通り過ぎる。後方を見ていたリィはさまざまな人を見ていると、
その中に制服を着て赤い自転車に乗っている若い男性を見つけて手を振る。それに相手も笑顔で手を振る。

「もう座ってください。お行儀悪いですよ」
「やだ、もうちょ・・・・あーっ」

 その自転車は公園に入り、ベンチで前に本屋にいた老人が本を台にして手紙を書いている。

 その前にキッと自転車を止め、
「おじいさんこんにちは」
 軽く帽子を上げて乗ったまま挨拶する。

「やぁ郵便屋さん」
 書き終わったのか封筒に入れ、
「これを頼むよ」
 差し出す。

「すまんねぇ、いつも」
「いいですよ。集配のついでですから。じゃあ」
 そう言って通り過ぎた。









 それから別荘へと着き、
「お待ちしておりました」
 あの少年が満面の笑みで出迎えた。

「これはご苦労さまです」
 そう言って荷物を運び入れ、ひと段落したのち、招待していた客が徐々に来だした。

 それから数日後・朝――――

 いつものようにワゴンを引いて戻ってきたアルベルトをディスが使用人室に引っ張り、
輪になって群がっている使用人たちの中に入れ、
「これ見ろよ」
 新聞の見出しを見せる。

 それはキャンブリー家の事。その不祥事が全面に取り上げられていた。

「なんでも商品で数人の人が病院に行ったんだそうですよ」

「事業を広げすぎて目がきかなくなったのが原因じゃないですか」

それが数日続いて破産と出た。

「破産?つい先ほどまでそのような事はなかったように見えましたが」

「なんでもあのあと病院に行った人の医療費請求や、商品の返金が多かったそうですよ」

「それもありますけど、なんでも今まで親しくしていた人の悪口を陰で言ってたらしいですよ。
 それが流れて社交界では誰も取り合ってくれなくなったとか。提携していた人も縁を切ったとかみたいで」

「キャンブリー家は必死に挽回しようと社交界で頑張っているようですが、上手くいってないみたいですよ」

「まぁとにかくだ、いずれはこうなる運命だったんだ。今頃てんやわんやしてるだろうぜ」


 その翌日、ステファニー宛てに手紙が来た。キャンブリー家からだ。
 内容は、今はとても忙しいからしばらくは侯爵様の家に置いてもらいなさいという文面だった。
 ルゥには置いてほしいと言う願いの文面であった。連絡は落ち着き次第こちらからする、と付け加えられて。
きっとかけられても取られない状況。つまりクレームやらの電話で回線が持たない上に、手紙を書くことさえ
ままならないのだろう。

「へぇ、あの主にしては珍しい事を書くもんだな」

「さすがに娘であるステファニー様だけは不憫に思ったんじゃないですか」

「でもよかったですねステファニー様。あのような所にお戻りにならなくて済んで」

「あの家の中では唯一常識を持った方ですからね。後のは」

「おい」

「いいじゃないですか、もうないのと同じですし」

「でも一応ステファニー様の家なんだぞ。あまり言うなよ」

「はい、すいません」


 それからまた新聞には批判が集中していた。


「使用人さんとかどうするんでしょうね。あれだけいたら給金もばかになりませんよ」

 そう言うのは挽回のために社交界で使った金がマイナスに転じたからだ。

「下手したら人身売買するかもよ。それくらいやりかねないよ」




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