その車内で横に座っているリィはウキウキした感じで、
「僕ステファニーちゃんの家に行くの初めてなんだよね」
「僕も初めてだよ」
「でもステファニーちゃん、家に行きたいって言ってもなかなか呼んでくれなかったんだよね、どうしてかな?」
 その疑問に笑って、
「何かと忙しい家だからね。お仕事もしているし、そこに呼ぶのは悪いと思ったんじゃない」
 返して窓の外を見た。

 ルゥは知っていた。ステファニーがどうして呼ばないのかを。

 馬車は目的地に着き、屋敷内へと入る。相も変わらず使用人が多い。

 自分が連れてきたのはリィ、アルベルト、ディス、その他数名の使用人のみ。


 ダイニング――――

「お受け下さりありがとうございます」
 キャンブリー家当主、レルやステファニーの父親はそう感謝の意を述べる。

「いや」

 その席には当主、その奥方、レルとステファニーが座っていた。

「今宵は侯爵様のために良いワインをご用意いたしました」
 ワゴンに運ばれて出てきたそのワインを見るや否やルゥは驚く。

「おや、どうされましたかな?」
「・・・・いや」

 なんてことだ。言葉を失う。それにステファニーも抑えてはいるものの驚いていた。

「侯爵様が驚かれるほどの珍しいお酒とは思いませなんだ。ではさっそく」
 開けるようにとメイドに指示を出すと、
「お待ちください」
 とっさにアルベルトが止めた。

「こちらも招待していただいたお礼として持ってきております。それをお受け頂けませんか?」
「ではこのワインはどうするのだ」
「後日、我がお屋敷で頂戴させていただきます」
 それにもう一言言いたかったのだろう、口を開こうとすると、
「僕の厚意が受けられないというの?」
 ルゥが遮る。それにあわてて、
「い、いや。そ、それでは頂きましょう」
 アルベルトに目をやり、
「あけろ」
 そう言った時、ルゥはピクっとし、
「僕の執事なんだけど」
 当主に鋭い目を向ける。

「あぁ、これは失礼を」

 それから晩餐を始めたが初回で気まずくしてしまい、なんとか機嫌を戻そうと必死に話すが、ルゥはその話しがあま
り面白くなかったせいもあり、わずかな相槌を打つ程度で話さずに食べる。ときおりリィやステファニーと話すが、当主
とレルには話さない。それがそろそろ終盤を迎えそうになった頃、
「お台所をお貸しいただけませんか?」
 アルベルト近くにいたメイドに囁く。場所を教えてもらいその場所へと向かう。

 それにレルはわからないように口元に薄い笑みを浮かべる。

 それから数分後、アルベルトはコースが終了する間際でワゴンと一緒に戻ってきたので驚く。
 それはレルの執事も同じこと。

「侯爵様の使用人のお茶をいただけるとは有り難い事です」

「・・・・」

 それに対してもルゥは何も言わずカップを手にした。




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