それからルゥの状態はだいぶ良くなった。リビングのいつもの席でお茶を飲んでいるとリィが入ってきた。
「ねぇ行こうよにぃ様、あの湖のある別荘。母様も行くって」
無邪気に誘ってくるリィ。そう言うのはシーズンが近い事を意味していた。
(もう一年になるんだ)
つまり去年のシーズンにアルベルトと出会ってもう一年という事になる。
「にぃ様?」
「い、いや。なんでもないよ。そうだね。行こうか」
リィはピョンピョン飛びながら、
「ねぇステファニーちゃんも連れて行っていい?」
聞く。ステファニーはあの後、レルと供に屋敷へ帰っていた。
「もちろんだよ」
「わーいっ!あ、そうと決まればお買い物っ♪」
それにルゥは不思議な表情で、
「買い物って・・・・最近も行かなかった?」
「いつものと別荘に行く買い物は違うの」
「そうなの?・・・・・よくわからないけど」
首をかしげる。
「にぃ様もいこ」
袖を引っ張ると、
「え、でも」
傍らにアルベルトの方を見る。それにアルベルトは笑顔で、
「お医者様も大丈夫だと言っております」
答える。
「だって。ねぇ行こうよ」
手を引っ張って揺らすので、
「そうだね」
すこし困った笑顔で返した。
街――――
人がごった返していた。
「人が多いね」
「みんなシーズンの為に買い物に来てるんだよ」
「そう」
「にぃ様は買い物に行かなさすぎるんだよ」
(リィは行きすぎだと思うけど)
「?」
「なんでもないよ、さぁ行こうか」
「うんっ」
しばらく歩いて物色してると、アルベルトの足に幼い少女がぶつかってきた。
その衝動で持っていたクマのぬいぐるみを落とす。
「大丈夫ですか?」
ひざまずいて少女を見ると、
「こら、ちゃんと前を見て歩きなさいと言っているだろう」
後から歩いてきた父親が困った感じで言う。
女の子はプーとむくれて父親を見上げ、
「だって早くしないと売り切れるもん」
そっぽをむくと、父親は更に困った表情で、
「すいませんうちの子が」
謝る。
「いいえ、お気になさらず」
衣服を払い正し、落としたぬいぐるみもはたいて手渡す。
「ありがとう」
屈託のない笑顔で応え、駆け出していく。
「こらっ、さっきも言っただろう。すいません、失礼します」
そそくさと少女の後を追った。
立ち上がるその横にいたディスが、
「よっぽど欲しいもんなんだろうな」
走っていく光景をほほえましく見ていた。それにアルベルトも見ながら、
「そのようですね」
軽く笑い、歩き出した。
それからさまざまなものを物色して買い物をしていくリィ。
リィは買い物慣れをしているので新しいものを見つけるのが早く、上手に買い物をしていく。そこに、
「これは侯爵様」
向かい側からやってきた夫婦が声をかけてきた。
「やぁ」
応えると男性の方が、
「お話は聞いております。お加減の方はいかがです?」
「もうだいぶ良くなったよ、ありがとう。ここで立ち話もなんだからお茶でもどう?時間があるなら」
「いいですわね」
快諾の返事をもらってリィの方を見、
「リィはどうする?」
聞くと見上げて、
「僕はまだ見るものがあるからいい」
応える。
「そう。じゃあ行っておいで」
そう言うとディスを含め、荷物を持った数名の使用人つれて人波に消える。
帰宅後――――
「招待?」
レルの家から快気祝いに明日の晩餐をご一緒にいかがですかという内容だった。
「はい、いかがなさいますか?」
その問いかけにルゥは言葉を出した。
しばらくして、
「ご主人様」
「どうしたの?」
「行くってどういう事ですか?」
ディスが血相を変えてルゥの元に来た。そのときルゥは本を読んでいた。
「どういう事って?」
平静に聞き返す。
「アルベルトを欲しがっている家にわざわざ行くなんて」
「自殺行為にも等しい。そう言いたいの?」
「・・・・はい」
ディス達はレルが連れ帰ろうとした時からアルベルトが倒れた時までの状況を聞かせていない。
それをもし言いでもすれば、断固断るべきだと話が深夜まで及びそうになる。だがそれを嫌ったわけではない。
それはルゥが話す必要がないと判断したためだ。
「これと言って断る理由もないしね」
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