そろそろシーズンも終わりかけになる頃、パーティをしてくれた知人を招くことにした。
その当日――――
執事が知人を出迎える。客は女性が二人と付き添いのメイドが二人。
ここ近年の事だけれども、自分の使用人に好きなものを着せたりというのが流行っているらしい。現に僕の弟は自分
の専属執事に着せている。使用人自身は嫌がっているかと思ったが、それを面白がっている節がある。
僕はというとあまりそういったことに興味がない。だからベーシックなまま。
けどなぜかその時はそうしてみたい気分だった。そんな大それたものじゃないけれど。
ネイビーの燕尾服。ネクタイ・ベストも同色。
カフスボタン類を含めたボタン類や後ろのベルトの金具もゴールドだが、ネイビーの色がそれを抑え、品よく見せている。
本来エンブレムをつける場所に長方斜め三枚の薄い金属もボタンの色と同色。歩いて揺れるたびにトライアングルの
ような音が鳴るものを付けた。
案内した後、 婦人方を席に着かせた後、紅茶を取りにいったん退席する。
「お招きに預かりましてありがとうございます」
「あのような招待状は初めてでしたわ」
テーブルの向かい側に座っている婦人二人が嬉しそうに話す。
「招待状?」
「はい。封筒の中に小さなポプリが入っていまして、それがとても」
「そう。喜んでくれてうれしいよ」
軽く笑う。
(随分と気の利いた事をするんだ。・・・まぁあの執事ならそれぐらいやるかな)
「それにしても侯爵様。あのような使用人をどこで?」
聞かれたのでおどけて、
「内緒」
応える。さすがに知人の前では無愛想な顔はしない。
父譲りの社交が役に立っている。
僕は足が不自由で話やゲームをする事しかできない。しかしそれでも構わないという人が多いので、人に対しての縁
が良いことだけは感謝している。
「まぁ」
クスクス笑い、
「もうこの辺りではいないと」
もう一人の婦人はハッと口元に手を添える。
「いいんだよ、気にしないで」
「所でお名前は?」
「名前は――――」
そして持ってきた紅茶で談笑し、ある程度時間が経った頃、晩餐まで自由にしてくれて構わないとリビング後にして
書斎で本を読んでいた。
しばらくすると、涼風が部屋を駆け巡ると同時にやさしい旋律が伴ってきた。
その音に誘われてその部屋に来てみると、彼がピアノを弾いていた。
やさしく柔らかい旋律。音が風に乗り、屋敷を駆け巡り、穏やかなる時間をさらに穏やかにしていた。
その音を部屋に入らずドアにもたれかかって聞き入っていると、
「ご主人様」
呼ばれたがルゥは気付かない。頭のわずかな余韻にまだ浸っている状態だった。
「ご主人様」
もう一度呼ぶとルゥは気付き、しばらく見合った後、伏せ目がちに目をそらし、
「ねぇ」
ほほに赤みが帯びる、それを隠すようにうつむき加減で少し間を置き、
「・・・・もう一度聴かせて」
お願いすると、フワッと笑い、
「はい。ではこちらへお座りください。立たれていてはご負担になりましょう」
横に立って腕を差し出す。恥ずかしい事に立っていて支えにしている足に重圧がかかって痛かった。それを知ってる
のか知らないのかさておいて、その腕につかまってカウチに座った。
それから数日後――――
「珍しい事をするもんだね」
リビングのいつもの席で一枚の手紙を少しひらひらさせていた。その横には束がある。
それは舞踏会の招待状。普通は夜に行われる。だがたまに粋な趣向を持った人間もいて、例えばありきたりで仮面舞
踏会とか、凄いのは大道芸を丸ごと呼んできたりとかするとか、でも今回のは違う。
早朝の舞踏会。いわゆる朝方だ。夜が明ける前に屋敷を出、明ける頃に着く。夜とは違った澄み渡る清々しさを味わ
うことができる。
「いかがなさいますか?」
僕はそれに頬杖をついて考えた。いつもなら何ら引っかかるものもなく右から左へと流してしまうのに、それが左へ
と流れない。
(どうしようかな)
どことなくウキウキとする感情が鼓動とともに芽を出したいと促しているかのように思えてならない。
もうそんなものはないと思っていた――――
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