「そうかい、それはすごいねぇ。けど――――





「君はどれだけつながっているの?」


「え」

 ピタとレルの時間が止まる。

「つながってますよ。それが何か」

 そう返す兄に侯爵様は笑いました。

「いや、ただ単に聞いてみただけだよ」

 そして少し間を開け――――

「ねぇ――――」

「そのものが何であるかも知らないで、ただ欲しいというのは、愚かなことだと思わない?」

 その時の私にもその言葉の意味がわかりませんでした。でも今ならわかります。

「そう言う人は二度と手に入る事のないかけがえのないものさえも失う事になるだろうね。
 そしてそれに気がついた時、それはもう届かない。そして生涯後悔するだろう、己のしてしまった事の大きさに」

 もらいに来た方々は彼のもつ価値を知っていたのです。ですがその価値がなんであるかは今でもわかりません。

 そして侯爵様もまた彼をもらいにきた――――

「フォード君♪」

「これは侯爵様」

 一人であるという事を。


 そしてまた数日後の事。この日は両親と兄が出かけておりました。私もと誘われましたが、
人々の視線が嫌で断り、屋敷で本を読んでいました。

 そこに侯爵様がやってきました。

「あれ、両親とお兄さんはお出かけかい?」
「はい」
「君は?」
「・・・・私は」
 少し考えると、ワゴンの音がした。

 彼がお茶を持って来てくれました。時間はちょうど3時手前、入ったと同時にベルが鳴りました。
 ワゴンに乗っていた食器がふたつ。彼は侯爵様が来る時間を見計らっていたのです。

 彼はたまに仕事が残っていると言っては屋敷に残っていました。きっと侯爵様が来る事をしっていたのでしょう。
 向かい合ってソファに座り、茶をスッと渡され、いつものようにテーブルに置くのかと思いました。

「どうして?」

「侯爵様は兄や両親の前ではお茶をお飲みにならなかったからです。侯爵様は知っていたのです。そのお茶に
何かが足りてない事を」

 それを侯爵様はソーサーを片手に持ったまま飲みました。

「おいしいね。僕、このお茶好きなんだ」
それに私も口をつけました。

「ありがとうございます」
 その味は初対面の時に渡してくれた彼のお茶の味でした。

 侯爵様が来るその日は彼にとって嬉しく、また幸せな時だったのかもしれません。





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