それから程なくしてある方が遊びにやってきました。

「侯爵様のお父様です」

 葬儀の時に助けてもらいました。

 話を知っていた人たちは私たちを嫌悪と憎悪の眼で見ていました。まるで人殺しが来たかのように。

 確かに人殺しですよね。彼ほしさに様々な手を下して主人から連れていった。殺人者だと。

 それでも両親と兄は気が付いておりませんでした。

 そこに救いの手を差し伸べたのは侯爵様のお父様でした。

 子供と思えるぐらいの天真爛漫で人を和ませる事がとてもうまくて、数分もたたぬうちにその空気は払しょくされ、
葬儀は何事もなく終わり、後日お礼という事で晩餐に招待しました。

 それからは懇意となり、よく遊びに来てくれました。

侯爵様は使用人たちに菓子を渡したり、またその輪の中に入って談笑していたり、また遊んだりしてました。

 その日もいつものように遊びに来ていた時の事、侯爵様の連れてきた猫がいなくなってしまったのです。
 その時一緒にいた私も探しておりました。

 すると書斎から彼が現れて、その腕に猫が抱かれていました。

「あ、パール」

 侯爵様は小走りで彼の元へ行き、
「どこに行ってたんだい。探したんだよ」
 頭を撫でると機嫌よく鳴き、その腕からするりと抜けて侯爵様の肩の上に乗る。

 侯爵様は彼を見上げて、
「ありがとう」
 笑顔で言うと、彼も笑顔で、
「いいえ」
 返し、一礼して通り過ぎました。





 それから数日後の事――――

 兄を交えて午後のお茶をしていた時の事でした。
 兄は得意げに話をしました。

 それは侯爵様以外に遊びに来る人たちの事。
 その中には私たちと話すという建前で、彼を目的とした方がいらっしゃったからです。
 兄は自分が目を付けた人間だから、欲しいと思って来ない方がおかしいと言っていました。

 その方々は様々な手をしましたが、彼は事あるごとにかわし、それを振りました。
 そういう事から兄は彼が自分の事を信じてくれていると思っていたのでしょう。得意げでした。





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