「フォード」

 そう呼んだ。ステファニーはそれにハッと息をのむ。

 それにルゥは、
「フォード?」
 疑問詞をつけて復唱する。

「お前いままで一体」
 席を立ち、
「?」
 それに当然わけのわからないアルベルト。だがそんな事はお構いなく、
「来いっ」
 アルベルトの腕を掴んで廊下へと出ようとする。

 それにさすがのルゥも驚いて、
「ちょっと。僕の執事をどこに連れて」
 呼び止めると振り向き、
「僕の屋敷です。こいつの名前はフォード。僕の屋敷の執事です。色が違っていたからわかりませんでしたが、
この目だけはしっかり覚えてますからね」
 再度進めようとすると、
「どういうこと。説明して」
 止めたので、いらついて、
「説明?いったい何を」
 振り返る。

「悪いけど、アルベルトには執事以外の記憶はないんだよ」
 証言した。それに愕然とした顔で、
「記憶喪失・・・・!」
 アルベルトを見上げる。アルベルトは困惑した表情でレルを見る。

「大雨の日に倒れていたのを助けたんだよ」
 その時の事を話しだした。

 それから少しして、
「そうですか。なら助けていただいてありがとうございます。持って帰らせてもらいますんで」
 考えは変わらず、連れて行こうとすると、
「待って!どうしてそうなるの?!」
 声を上げた。

 それに冷たい表情で、
「侯爵様は助けたと言いましたね。どこの者だか分らない。だが捨て置くわけにもいかないから記憶が戻るまで臨時で
雇っていた・・・・という事ですよね?僕の推測が間違ってなければ」

 そう。どうせすぐに思い出すだろう。そういった気の軽さだった。

「けど、どこの家かわかった以上、記憶あるなしにかかわらずそこに返すのが筋というものじゃありませんか?」

 わかっている、そんな事は。

「侯爵様にはかわりのものをご用意します。では」

 でも――――

「その掴んだ手を離して」
 低い声で呼び止め、

「侯爵様、人のものは返さなければいけないと教わらなかったのですか」

立ちあがった席からわずかに離れる。影の差した冷たい視線を向け、

「アルベルトは僕の執事だ。誰にも渡さない」


 渡したくない――――




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