翌朝――――

「おはようございます、ご主人様」
 リィが目を開ける。ぼやけていたが徐々にはっきりし、
「ディス」
 パッと起き上がる。

 ほほに貼り薬を貼ったディスがいた。

「ご心配をおかけしました。もうしわけございません」
「お使いそんなに遠い所だったの?」
「え?――――あぁ、お使いは終わったんですけど、その帰りに女性が絡まれていたから、助けようと入ったら、
逆に返り討ちにあいまして、助けた人が介抱してくれていたんです」
「なんだそうだったの?」

「はい。連絡もせず申し訳ございません」

「いいよ。それより良かったね、その女の人。返り討ちにしろ、ディスが助けてあげなかったらひどいめにあっていた
だろうね」

「僕はディスが執事でよかったと思うよ」
 ニコっと返すので、それに動きが止まる。

「どうしたの?」
 それに笑って、
「いえ、それよりももう一つお詫びが」
 すぐ苦笑に変わった。

「助けに入って車のカギを閉めていかなかったもので、あの・・・・・盗られました」

 それも“いいよ”で返してくれるかと思いきや、
「何してるのっ!ぼく楽しみにしてたんだよ」
「私が助けてあげなかったらひどい目にあってたんですよっ。女性が助かってよかったってさっき」
「それは別っ!買ってきてっ!」
「なんでそうなるんですか。いたっ」
 枕を投げられた。

「バカっ!」

街――――

「あぁ、くそ。いってぇ〜」
 うなりながら頬をさする。

「大丈夫ですか?」
 アルベルトが心配そうにのぞくと、
「大丈夫だよ。骨が折れてねぇのが幸いだ」
 軽く笑う。

 そう話していると、向かい側から方向の定まってない男がやってきて、アルベルトの左にバスっと身体を当て、
「気をつけろ」
 通過する。それが離れていたディスにもにおいが来、
「うえ、酒くせ。なにが気をつけろだ。フラフラ自分から当たっといてよ」
 わずかに振り返ってフラフラ歩く酔っぱらいを嫌そうな目で見た。

 それから数日後、誘拐事件が単なるでっち上げである事が発覚した。
 首謀者の家は新聞社を買収し、誘拐事件という流言をながし、さらに真実味を帯びさせるために
警察関係者数名を買収していた事も明らかになった。
 前主人に事情聴取したが、明らかな証言は得られていない。それは「ばれるはずはない」「口止めしたはずなのに」など
発狂してそれどころではなく、一時断念して病院に送られた。

 通報したのは匿名の婦人であったという。



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