「夜分遅く失礼いたします。こちらに当家の者が来ていると聞いて伺ったのですが、来ておりませんでしょうか?」
アルベルトが来ていた。コートは車に置いてきた。
「お待ちくださいませ」
伺ったメイドが前主人にその事を伝えに来たのだ。
「なんだと。わかるはずが」
前主人はそれに驚きを隠せなかった。
「いかが致しましょう?」
それから30分後――――
「お待たせしました」
アルベルトはその部屋へと案内された。
「このようなお時間にお邪魔して申し訳ありません」
前主人に頭を下げる。
(これがその執事か。確かに欲しい気持ちがわからないでもない。それにこれは好都合だ)
前主人の背後に横たわっているディスの方に行き、
「ディスをどこで?」
背後にいる案内したメイドに聞くと、メイドは少し戸惑いながら、
「道で子供を助けて倒れている所を助けたんです。お電話をしようかと思いましたが、あまりにひどかったのですぐに
連れて帰れるような状態ではありませんでしたので、状態が落ち着きましたら、後ほどお電話をさしあげようかと」
答える。そうは言うが、それにしては医師の処置とは思えないずさんな応急処置で傷もわずかながらに生々しい傷跡
がはっきり見える。
このあからさまなウソであるのに普通に、
「そうですか。それはありがとうございます」
返し、ディスの肩に触れ、少し揺らして、
「大丈夫ですか?」
声をかけると、ディスはうっすら眼を開けて、
「・・・・アルベルト、なんで」
話そうとすると手を前に出され、
「話さないでください。痛むでしょう」
小刻みに首を振る。そうディスは口が切れていた。
「に、にげ」
そうだ。逃げてくれ。自分にとっては助けに船だが、こいつらからすれば好都合だ。わざわざ食べに来てもらった獲
物を逃すようなハンターがいるだろうか。
そう言おうとした時、口にハンカチを当てられる。ラベンダーの香りがする。それに気持ちが落ち着く。
その背後で主がアルベルトの後ろへと回り、
(少しぐらい味見しても罰は当たらんだろう。それにそうしてしまえば捕まえる事など容易なことだ)
アルベルトの左肩を掴んで顔を寄せるや否や、アルベルトはその左手でその主を思いっきり払った。
主は思いっきり吹っ飛び、ワンバンをつけてドア付近にいるメイドの所に着く。
その場にいた使用人たちはその威力にただただ言葉を失う。
それに息切れを起こしながらも、
「これは・・・・!申し訳ございません」
謝る。どうやら反射的にしたようだ。
「っ」
幸いにも前主人は気を失ってはいなかった。言葉を失った使用人に上半身を起こしてもらう。
呼吸を落ち着かせたアルベルトはディスを抱き上げ、起きて使用に以上に絶句している前主人に、
「お助けいただきましてありがとうございます。この礼はのちほど」
笑顔で礼をし、茫然とするその場を後にし、その屋敷の廊下を歩いて行く。
その背後で誰かが覗いて薄く笑っていた――――
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