「――――フッ」
軽く吹きだした。
(懐かしい事を思い出したもんだな――――。ひょっとして走馬灯?冗談じゃねぇよ)
その時、ガチャとドアが開き、その隙間から光が差し込む。
「久しぶりだな、ディス」
それに眼だけを向ける。それは忌々しい視線。
この男がそう言った視線を向けるのは、かつての主と同僚、ただそれのみ。
声をかけた前主人は数人の使用人と供に入ってきた。それと同時に部屋の明かりが灯される。
「元気にしてたか?」
声をかけられるが、ディスからすれば、
(しらじらしい)
舌を打つような忌々しさが先に来る。
「まさかあのブレンダ侯爵家の次子の執事になるとは正直思わなかったな。いや実に久しぶ」
「何かご用ですか?」
忌々しく遮った。そんな人間と話がしたいなど思わない。
「ディス、お前に聞きたい事がある」
間を開け、
「あの男と寝たのか?」
問われたディスは何かを悟った。
「巷で話題の誘拐事件を利用して、俺をさらってあいつを連れて来いとでも言うんでしょう。違いますか?」
にらみつけた。それに少し間を置き、
「内部なら怪しまれる事もありませんしね」
息を吐く。
随分と手の込んだ事をする。
誰がそうさせたのかなんてのは聞くまでもなく想像がつく。正々法が無理なら人を使うという事だ。
前主人はかがんでディスに顔を寄せ、
「話が早い。さぁあの男を連れておいで。昔の事を言われたくなければ」
と言った言葉に平然と、
「どうぞお好きに」
返す。
「俺はそれに向き合うと決めたんです。それもまた自分であることを。それが遅くても受け入れ認めようと。だから誰
に何と言われようと自分は構いません」
それにクックと笑い、
「主人に随分と入れ込むな。大きくなればいつか知られてしまう事になるのに」
「いいですよ。例えいつか誰かの口によって知られてしまう事になっても、リィ様と供に入れるこの時間を自分はいま
大事にしたいですから」
「そう言いながら、夜はあの男としているのだろう?」
変な所に話がそれたので、それにハッと呆れて、
「そんなわけないでしょう、それにアルベルトはそう言った事に対しては恐ろしいほどの」
言いかけたその時、あぁといった感じで体勢を戻し、
「そうかじゃあ」
気味悪くニヤニヤして、
「あの子供か。何度か会った事はあるが、顔に似合わず出来るのだな」
詰まった笑いをし、
「だが、足りないんじゃないのか。体格差で」
などと言ったので、ディスはピクッとし、低い声で、
「それ以上、ご主人様を俺の前で侮辱するならただじゃおかない」
すごんだ眼で睨みつける。とても倒れている人間の目ではない。
「貴様、前の主に対して・・・・!」
「前の主だろうとなんだろうと、俺の主人を侮辱する事は許さない」
それに手を上げるかと思いきや、嘲るかのような含み笑いされ、
「さて、その決意がいつまでもつかな。お前はいつも決意をしたと言いながら長続きした事がない」
今度は馬乗りになり、顔を寄せられ、耳に近づき、
「決意は揺らぐ。極地に追い込めばもっと揺らぐ。そして消える」
意地悪く囁く。
そうだ。俺はその日に決めたことでさえまともに長続きした事がなかった。
一週間、いや下手をすれば一日で崩れていた。
だが今は違う。
「痛かった?」
決意は揺らぐ。だが――――
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