そう思った次の瞬間、

『アルベルトが』
『えぇ』


 話の続きが脳裏に入って来る。

『エンブレムがあるかどうかで信頼というものは推し量ることなどできないものでしょう。ましてご主人様はそのよう
な事でお決めになるような方ではありません』


 パシンと相手の右手を内側から外側に打ち払う。その間に旗はゆっくりと地面に落ちる。

『私は』

 歓声が上がる。それに恐る恐る目を開け向ける。

『あってもなくても構いません』

 その前に棒から手を離し、払うと同時に落ちていく。そして突きだした左腕を右逆手に持ち、体勢を左側にひねると
同時に後方に投げ飛ばした。

 アルベルトは助ける事もなく落とした旗を拾い、歓声がするルゥの所へと恥ずかしそうに少しうつむいて戻り、
「もうしわけございません」
 謝るがルゥは応えずにその場にへたりこむ。それに周りはあわてるが、ルゥの耳には何も入ってこない。
 それにひざまずいて肩を抱いているアルベルトの胸を掴み、

「よかった」
 囁く。誰にも聞こえない声で。

「ありがとう」




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