アルベルトは厨房でシェフと最終確認をしていた。
 そこにメイドが入って来て各種のお皿を持って聞きに来た。
 わきあいあいとした雰囲気。

 それを不満そうに見ていたのが約一名。

「おい、ちょっと待てよ新入り」
「はい」
 ちょうどワインセラーで取りに来ていた所を呼び止められた。

「俺は前、ここで執事をやってたんだ。もしわからない事があったら聞いてくれるといい」
 まるでこの家を支配しているかのような横柄な態度、それにアルベルトは笑顔で、
「それはありがとうございます。ですが――――」
「ん?」
「そのご厚意は大変嬉しいのですが、かつてここで勤めていたとはいえ、違うお屋敷へ行ってしまわれた方に聞くのは
おかしいと思うのですが」

 間違っては、

「え」

 いない。

「それにそういった事はディスや皆さんに聞けば済む事ですから。もうしわけございません。失礼いたします」
 そう言ってそこから一本取ってその横を通り過ぎた。

晩餐――――

 空気が重い。その原因は――――

「いかほどでか聞いてるんです」
「いい加減にしてくれない。食事がおいしくなくなる」

 あれからずっとこの調子である。

 しばらくして――――

「では交換しませんか」
「交換?」
「侯爵様の執事と自分の執事」
 それに手をとめ、
「なんでそうなるの?」
 呆れた顔をする。それに優越感に似た表情をし、
「あれ、そうして欲しいから普段むきにならない侯爵様が譲らないものだと思ったんですが」
 軽く笑い、
「――――返してほしいんでしょう、この執事」
 その執事に目を向ける。

それにそっぽをむき、
「返してなんか欲しくない。むしろお断りだよ」
 手を動かそうとすると、
「無理しなくていいんですよ」
 そう言われて再び手を止める。

「帰って来てあげてもいいんですよ。自分がいなくて大変でしょう」

 その瞬間、辺りはざわめいた。

「執事がだめだというのなら、家令でも結構です」

 なんて口のきき方だろう。かつての主に対して敬語とはいえ、相当失礼な言葉を言った。
 ディスはそれにグッとなったが、場が場である故、なんとかこらえていた。

「・・・・もう寝る。後は好きにするといい」
 ダイニングを出ていった。

「失礼します」
 アルベルトはディスに“後の事をと”言うように目配せし、ルゥの後を追った。

 静まり返るダイニング。

 周りの視線が自然とレルの執事に集中する。食事が終わるまで延々と。そして終了後――――

「ちょっと来てもらえます?」

 そう声をかけたディスの顔は怒りが限界を超え、顔ににじみ出てしまうほど、もう片眼がピクピクしていた。


 その間、ダイニングを出ていったルゥは無理をして早足で歩いていた。

「っ」

 だが、つまずいてその場に倒れ込んでしまった。腕の力で起き上がろうとすると、
「ご主人様」
 それを後から追ってきたアルベルトに肩を抱き上げられた。だがうつむいて応えない。

 それに何も言わずそっと抱き寄せると、ルゥは胸に顔をうずめ、唇をかみしめ、
「失礼な奴だよね。自分から売りに行っておいてさ。戻って来てあげてもいいだって?
 誰に向かって言ってるんだろうね、偉そうに」
 途切れ途切れに話す。その段階で身体が小刻みに震え、喉から大きなものが出そうなのを
小さな身体で必死に必死に押し殺していた。






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