人の群れ、そびえたつビル群の電子掲示板、テレビのCMにワクチン接種の報せが流れ、道行く人に紙が手渡される。
いつもと変わらない風景。上へ下へと人が流れる。そこを歩く一。その向かい側を櫻井があからさまに真顔を見せつけて通り過ぎる。
それにバッと勢いよく振り返り、その後を目で追うと、その先には牧が待っていた。この男には似つかわしくない花を持って。
そこから自然に手を引っ張り、背を向けて歩く。一はその後を離れてついていく。
それに振り返る事もなく歩く二人。
たどり着いた場所は因縁の場所。
靴音が反響する。
そこにひざまずいて花を置き、立ち上がった牧に触れようとした瞬間、
ガチャ
額に銃口を当てられていた。顔は無表情。
引き金にグッと力が入った瞬間、バッと下がって間合いを開け、
「兄さん」
「・・・・」
「兄さん一体今までどこに」
「・・・・」
「心配してたんだよ」
「・・・・」
「兄さん、どうしていなくなったりなんかしたの」
「・・・・」
「黙ってないで答えてよ」
「・・・・」
「兄さんっ!」
それに深くうんざりした息を吐き、
「言って分からない奴に言うだけ時間の無駄だ」
言って返した。
「そんな事ないよ。僕は兄さんの事を何でも知ってる。言ってくれればわか」
「るわけないじゃない。よくもまぁそんな見え透いた事がスラスラと言えるわね」
先に来ていたミリィが遮って背後から櫻井を少し下がらせて前に出、冷たい表情で一を見る。
「君が・・・・ミリィか?」
「そうよ。で、聞くけど、あのとき慎二がどんな表情してたか貴方は見てたの?」
「そ、そんなの決まって」
言おうとしたが、フッと笑って、
「だって普通、あんな表情した人に抱きつこうなんて考えたりしないわ」
再び遮る。
「ミリィ。どうして君まで僕を嫌がる。僕は君に何も」
そう言った時、ミリィの目元がピクっとし、
「したじゃない」
「え」
「あたしの目の前で坊やをなぶり殺したじゃない。見えているあたしに気づきもしないで、なぶるのがよほどお好きなようね」
奥から出るような声で憎しみをこめて言う。
「――――!」
うかつだったと気がつく。
「貴方ほどの人間ならあたしがついている事ぐらいわかっていたはず。それでもしたのは、その存在を忘れるほどの貴方の醜い欲が支配したから。
その時、それをしたのが貴方だと察した慎二が激怒していた。普通こわくて誰も近寄らないわ。それなのに貴方は近寄り、
それどころか抱きつこうとした。見てない証拠じゃない!自分の都合のいい表情、場面しか見てなかった。
それで何でも知ってるですって?ふざけないでちょうだい!」
そう言って牧に自分の銃を渡す。それを受け取り、フランクのグリップの刻印を
押すと突起が出、次に押したミリィからはめ込む穴が出る。
それに一回転させてガチッとはめる。すると銃口は反対方向に、まるでブーメランの形態になった。
「それは」
「あたしがなぜラストジョーカーと言われるか。それは最強の切り札――――
最終技シャッフル。この技は、貴方、そして持ち主である慎二の命も奪う。父であるフランクから引き金を引くと
同時に宙にやるとタイマーがかかってどちらかの弾が発射される。そして二人のどちらかの命を必ず持って行くわ」
「そんな危険な技・・・・!どうしてそこまでするのっ!こいつを含めたあいつらの為?!馬鹿げてるよっ!」
それに櫻井が出そうになったが、ミリィがスッと止める。
「兄さん気づいて。僕たちの間をあいつらが邪魔しているんだよ。僕はそれを排除する。だから」
「お前が邪魔だ」
「違うっ!」
「そう思い込んでるお前が邪魔だ」
牧は二対一体の銃を宙に投げ飛ばした。
秒針を刻むがごとくゆっくりと舞い、ガンっとどちらからかの弾が発射され、一の横をかすめた。
女が嗤う。
その瞬間、牧はその銃のグリップの間をかすめ取る。
それに一はしばし茫然としたが、次の瞬間――――
「・・・・勝った」
気味悪く笑い、
「ラストジョーカーは兄さんを撃たず、僕も撃たなかった。ラストジョーカーさえ僕たちのつながりを認めたんだっ!
やはりそれは僕の手の中にあるべきものだったんだよ兄さん」
それを耳に牧は双方を元の状態へと戻す。
「やはり邪魔だったのは僕じゃなくてあいつらだったんだよ」
「・・・・」
何も言わず二対一体の銃を元に戻す。
「わかったでしょ!兄さん!」
歩み寄って来る。無邪気な笑顔で。
(なんて長かった事だろう。やっとわかりあえる。やっと手に入る。ミリィも、そして兄さんも)
そして触れようとした次の瞬間、
「確保」
Copyright.(c)2008-2010. yuki sakaki All rights
reserved.