「いやぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁーっ!」
と、金切り声が響いた。嬢ちゃんの声だ。
そのとき俺は、
(ったく、すばしっこい奴だな)
散会して逃亡した犯人を探している最中だった。
「止めてっ!お願いっ!そんなことしないでっ!お願いっ!お願いだからやめてっ!」
叫び声は廃墟の壁の壁のそのまた壁にぶちあたり、窓は風が吹いてるわけでもないのにガタガタと打ち付け、反響する。
それにとっさに走った。嬢ちゃんが叫ぶ事など全くと言っていいほどない。あるとすれば――――
「唐竹」
「あ、これは2課長」
そこには2課長がいた。
「君を呼ぼうとしていた所だ」
ここは携帯が繋がらない。ひどい電波妨害の場所だった。
「え?」
「兄さん・・・・いや、一課長が呼べと言った」
「課長が?」
変な事を言うなと思った。呼ぶ必要などどこにもない。そんな事は嬢ちゃんが伝えに来る。
それに違和感を覚え、ガっと鉄階段を駆け上がり、その光景を目の当たりにする。
あいつが死んでいた。血の海で、そこにただ一人―――――
「課長――――!」
寝かされて――――
嬢ちゃんが叫ぶ事があるとすれば、二人のどちらかにあった時だけ。
あいつはまずない。あるのは――――
「相田・・・・」
こっちだ。通信手段があるのに呼べと言ったのは、触れられそうになった、そう・・・・
「課長・・・・」
こいつだ。そして――――
「か・・・・兄さん」
お前だな、
「さっきまでいたのに・・・・」
相田を殺したのは――――!
「っの」
「このっ!」
おおよそ、相田と鉢合わせして当初の目的を忘れ、目の前にあるミリィに意識が行ったんだろう。
渡せと言って渡さなかった。それにカッとなってやったか。
「――――!」
事もあろうに遺体を蹴り飛ばし、掴んで揺さぶり、頭部を壁に打ち付ける。
嫉妬に狂った
「やめてください。遺体にそんな」
醜い人間が
「やめろって・・・・・言ってるだろ」
拳に力が入り、
「やめろって言ってる言葉がわからないのかっ!この頭でっかち!」
そこにいる。
危害を加えるその男を剥ぎ取るように吹っ飛ばし、相田を血の海から抱き上げると同時に睨み下げ、その場を後にした。
翌日はきっと免職させられるだろうと思った。上等だった。だが始末書だけでケリがついた。
俺をそのままにしたのは、パートナーである俺が唯一のコンタクトを持っているという事だ。会う可能性は十分に高い。
課の統制として、また慎二と唯一のつながりとして自分が置かれている事は百も承知。
そうならそれを逆に利用させてもらうまで。
そして、
「知りません」
案の定、慎二の居場所を聞かれた。当然知らない。だから、
「知らない事を知ってますという器用な口は持ち合わせていません」
口答えに近い返答をし、それからずっと謹慎を言い渡される常連となったのは言うまでもない。
見つける事は容易かった。あいつの事だからすぐさま個人情報を作成するだろう。苗字はきっと相田のを使うに違いない。にくたらしい相手の
名前を書き入れる事は最終手段。よってしばらくの時間はもらえる。
あいつは時間が欲しかったんだろう。欲しくもなる。ここまでされるとな。
あの後の葬儀はいま思い出しても言葉にならない。
参列者は見たわけでもないのに深い悲しみに口を閉ざしていた。だがそこに現れたあの男の時だけは
針のごとく、冷たく痛い視線を向けていた。
みんな知っている。見たわけでもない、だが知っている。
あの男ならやりかねないと。
関係者である俺たちは、そう言った事に対してはある程度感情を抑えて構えているが、今回はそうはいかなかった。
ふさわしくない死に方をしたこいつをみて平気な顔して送る事は出来なかった。
普段はなんにでも平気な沢村さえ感情を壁にぶつけまくっていたくらいだ。そこにいなかったあいつなんてもっとだ。
相田や慎二が一体何をしたというのだろう。普通に人を好きになって一緒にいただけなのに。一体それの――――
「・・・・っ!」
何がいけないんだっ!
「ちくしょう!」
バンッ!
十分とは言わない。5分、いや後1分でもいい、
間に合ったのなら、救えたのなら、こんな事になりはしなかった。
そんなのは生きている人間のエゴでしかないのはわかっている。
でもそう思わずにはいられなかった。
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