その意味を理解するのにそう時間はかからなかった。

 それは数日後の夕方での事。家路に着こうとマウンテンバイクを走らせていた時、腕に付けていた携帯が鳴る。

「もしもし」
 マウンテンバイクを止めて電話を取る。

『おぉ。櫻井』

「あ、おっさん。何の用だよ」

『今どこにいる』

「街の中。今から帰る所」

『ちょうどいい、少し助けてくれないか』

「え」

『すぐに来てくれ。場所は』

「え、ちょっ勝手に話を」

 ブツッ

「って、おいっ!」

 櫻井は電話を元に戻し、
「ったく、仕方ないなぁ」
 そう言ってマウンテンバイクで引き返し、その歩道橋へと向かう。

「おいおっさん。来てやっ・・・・」
 着いた櫻井は絶句した。そこに広がっている光景はいいものではなかった。

「おお、来たか」

「来たかって・・・・なんなんだよっ、これ」

「いや、実は」

 いつものように護衛をしていたが、突然相手が現れて歩道橋の上から一発発射され、現在はその依頼人をかばうようにけん
制している。
 それに周囲は見はするものの、すぐに何事もなかったかのように歩き去っていく。この世界ではごく当たり前のことであり、
いちいち足を止めたりはしない。

「お、お前、あいつに話を」

「はぁ?!おっさん昨日の話聞かなかったのかよ。話しが通用するような」

「じゃああの先生連れて来い。あの先生ならレベルもあいつより格段上だし、話しぐらい聞いて」

「でもあの人助けないって」

「人の命がかかってるんだ。それなら動くだろ。行ってるあいだはけん制しておくから、今頼めるのはお前しかいないんだよ」

「・・・・わかったよ」

 それにマウンテンバイクを走らせ家へと戻り、すでに帰っているであろう牧のもとを訪ねた。

 だが答えは当然、
「断る」
 即答。

 田淵の言う通り人の命がかかっていると知ったら動くのが普通だ。しかし――――

「なんでだよっ。人の命がかかってるんだぞっ!」

「そんなの俺の知った事じゃない」

「じゃあなんでレベルが」

「お前。銃のレベルが人を助けられるレベルと勘違いしてないか」

 この男は違った。鋭い視線が更に鋭くなる。

「え」

「何もそのために持ってるわけじゃない。俺のレベルが高いのは俺の勝手だ。それに高い技術を持っていたとしても人を助け
られるとは限らない。レベルと人助けは違う」

 そう言ってしばし見つめた後――――

「この目に映るすべての者を、助けてほしいと願うすべての者を助けられるわけじゃない。俺たちは神様じゃないんだ。
なんでもできるわけじゃない」

 ドアを閉めようとしたその時――――

「頼むよ、一度でいいお願いだから助けてくれよっ!お願いだからっ!」

 とっさに牧の腕をギュッと必死に掴む。

 それに牧は突き放し、ドアを閉めた。それに櫻井は少し茫然とする

(あいつ今――――)

ものの、我に返って乗りすてたマウンテンバイクで再度街へと戻る。

「おっさん無理だった」

「なんだと。薄情な先生だな」

「どうすんだよ」

「仕方がない。櫻井、その子を代わりにかばってくれ。俺が話を付けてくる」

「でも無理って」

「あんな薄情な先生の話なんて今となっちゃあ信用がない。頼むぞ」

「う・・・・うん」
 櫻井は替わってその女を隠すようにかばった。

「おい、話を聞け」

「うるさいだまれ、お前さえ殺せばあの子は自分の」

 更に銃口をつきだすと田淵は慌てて、
「お、俺に向けるな」

(え)



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