「向けるのはあっちだろ」

 あいつはお前が思っているほど良い人間じゃない。

「・・・・おっさん」

 あいつとその女は形は違えど、同じ考えで生きている。

「あいつがあの子の本当の彼氏だ。俺はあいつに頼まれて守ってただけなんだ。だから、助けてくれ」

 お前の事などどうとも思ってない。

 その瞬間、櫻井に銃口がつきつけられた。

 そうか、こいつらは他人がどうなろうと自分が助かりさえすればどうでもいいんだ。例えそれで死んだとしても。
 それは自分のせいではないと。

「頼むっ」

 心理を利用して掴んだら、後はどうでもいい・・・・そう言う事か。

(バカなのは俺の方か。あんだけ必死に頼むから乗った俺がバカたったのか・・・・・)

 あの時いってくれたその男の言葉の方がどれだけ親切だったか、いま身をもって教えられる。
 
持ってないから一生向けられず無縁だと思っていたのに、向けられるなんて――――

 それにチラッと女を見る。

 だが今なら逃げれば助かる。この子は俺とは関係ない。でも――――

 それが出来るほど器用な心は持ち合わせてはおらず、それに息を吐き、
(これも運命って奴かな)
 引き金が引かれ、それに目を閉じる。

 だがそこに鉄の塊が手渡される。よく見ると銃身が3インチのボルドーのきれいなリボルバー。

 その瞬間!

 バンッと音がした。

おもむろに目を開けてみると、
「遅い弾ね。スローで見えちゃう」

「え」
 目の前に赤いドレスを着た巻き毛のブロンドの女性が立っていた。
 気品のある目鼻立ち。そこに自信がある妖艶な瞳。不敵に笑う赤い唇。

 その女性はそういった後、櫻井の方をむくと同時に座り込み、
「大丈夫、坊や?けがはない?」
 先ほどとは打って変わって、やさしい表情で聞いてくる。それに櫻井は戸惑いながらも、
「う・・・・うん」
「そ、ならよかった」
 再び立ち上がる。それを視線で追った時、その横に、
「あ」
 自分を突き放した牧がいた。

「その女をよそにつれていけ」

「わ、わかっ――――!」

(・・・・さっきので腰ぬけてる・・・・)

「ちっ。腰ぬけてるのか。仕方のない奴だな」
 先ほどとは違って雰囲気が違う。そしてその手にはシルバーのシンプルなリボルバー。

 それに相手が発狂して撃った。それに牧も応えたその瞬間、相手の銃が暴発して手に怪我をする。
 それにとどめをさすように、もう一発。みごと胸を貫通し、のたうちまわることなく静かに倒れた。

 牧は銃をホルスターに戻し、
「帰るぞ」
 腰の抜けた櫻井を担ぎあげた。それに、
「あ、あの。お礼といってはなんですが、一緒に食事でも」
 先ほどまでへたりこんでいた女性があっさり立ち上がり、牧に話しかける。だが牧は不機嫌そうに、
「断る。さっさと失せろ、目障りだ」
 断る。それでも食い下がられ、最後には泣かれる。しかし――――
「さっさと失せろと言ってんだっ!ぶち抜かれたいかっ!」
 一喝。その気迫にびっくりし、よろめきながらその場から逃げだした。

 その夜――――



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