今日は芳井の所で夕食となった。

 このとき櫻井は初めて知る事になる。ミリィはあの時だれにも見えていない事を。
 なんでも、この銃に触れた者しか彼女は見えないのだと言う。

 彼女の名はミリィ・ジョーカー。櫻井のポケットに入れられた3インチの銃の持ち主。
 きれいなボルドーの3インチのリボルバー。セーフティを下ろすとそこに蝶の刻印がしてあり、銃口には走り書きの英語で
ミリィと刻まれている。牧の持っているシルバーのリボルバーのバレルには「フランク・ジョーカー」と同じように刻まれて
いる。この銃は牧の持っている銃と二対一対で「LASTJOKER」という名称になる。
 そしてどうして触れたものしか彼女の姿が見えないのかというと、ミリィはある事で命を奪われ、それでも生きたいと言う
執念から自身の銃に魂が宿ったのだという。ちなみにフランクは彼女の父であり、凄腕の殺し屋で、彼女もまたその力を引き
継いでいる。

 なんでも牧は国内の銃を全てダメにしたらしい。牧の能力が銃の能力を超えてしまっている事が原因。
そうなるともはや国外でしかないと言う事で、渡米し、二対一対のラスト・ジョーカーを手にした。
 凄腕の殺し屋の銃であると言う事は、レベルが確立されてい時代ではあるものの、それ以上、また同等の力を有する。
 現にその銃は持ってから壊れる兆しは全くと言ってほどないことから、まず間違いはないだろう。

 ちなみに先ほどの技はリバーブレイク。相手の発砲した弾を相殺(はね飛ばし)、弾ごと相手側のバレルに押し戻し、暴発
させる武器破壊も出来る技である。しかし、一センチでもずれれば、間違いなく命を落としかねないリスクの高い技である。

 それに田淵は本当に触れられるのかどうかとミリィのある部分に触れようとした瞬間、
「何すんのよっ!この変態っ!」

 
バチンッ!

「っ〜・・・・」

 と強烈な平手打ちをお見舞いした。

 触らす予定は本来なく、芳井が触れた瞬間ふいをついて触り、見えた瞬間、触れようとしてご覧のあり様。

 それから夕食となり、櫻井は田淵と口を利かない。それは、
「すいませんねぇ、先生。助けていただいて」
 牧とて同じ事。この悪びれる事のない呆れを通り越して表彰したいこの態度。
 酒を差し出すが、牧は受け取らない。

「自分はなんて運がいい」
 その瞬間、酒を飲んでいた牧の視線が鋭くなり、キンとした緊張が辺りを包む。

 さすがにそれを感じた田淵は、
「え、なんか悪い事を・・・・・」

「俺が助けたのは櫻井だ。お前じゃない。お前とあの女が死のうと俺の知った事じゃない」

「そ、そんな薄情な」

 そう言った時、
「薄情だと?お前がそれを口にするのか」

「え」

 更に鋭さは増し、

「薄情は一体どっちだ。随分と都合のいい頭だな」
 そう言って部屋を後にする。

「・・・・」
 何も言えない田淵。

 それをしり目に追いかける櫻井。

「な、なぁ、どうして助けてくれたんだよ」

「・・だ」

「え」

「最後だ」

 それに振り返り、櫻井に迫り、肩に手を置いてキスした。



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