「あたしを渡すのはこれが二度目なの。
――――慎二にはね、大事な人がいたの。けど3年前・・・・殺されたのよ、あの男に。抵抗できないのをわかっていながらね」
「そ、それって」
「そうよ。無抵抗な人間を殺す事はシステムに適応する。殺した人間がのうのうと警察のトップに立っているのよ」
「さぁ渡せ。兄さんも一緒に」
『あいつ、あたしが慎二に会う前に付き会った子たちを全て死に追いやったわ。自らの手を汚さずにね。この世に大事な人間は自分しかいないものだと
まるで教え込むみたいにして。
あの時の嬉しそうな表情、今でも忘れないわ。やっと手にはいる。あんな気持ち悪い表情、そうそう忘れないわよ。』
「この目に映るすべての者を、助けてほしいと願うすべての者を助けられるわけじゃない。
俺たちは神様じゃないんだ。なんでもできるわけじゃない」
「そしてとうとう自ら殺した。慎二は耐えられなかったんだと思う。自分が触れるもの触れてくるもの全てが不幸になり、
命を落としてしまう事が。人生を台無しにさせてしまった事が堪えられなかったのよ」
「でもそんな、そんなの二人のせいじゃ」
「わかってるわよっ!でもそう思わずにはいられない、いられなかったのよ!」
かぶりを大きく振る。
『あたしが会ったのはその子と一緒になったちょうどその頃。あの子にあたしを渡した。
その子も坊やのように銃が扱えなくて。でも守るだけの事は出来る。でもあの子の利き腕を先に撃たれてしまって
あたしは見ているしかなかったの。慎二の大事な物を守ってあげる事が出来なかった。
あの子、蹴り飛ばされてもあたしの事を離さなかった。死んでも離さなかった』
うつむくと同時に唇をかみしめ――――
「離さなかったのよ・・・・・!」
悲痛な言葉が耳をついて離れない。それはいまもずっと――――
「いや」
「君は何を」
「いやって言ったの。聞こえなかった?」
変わらない。痛くて悲しい心の悲鳴。
「渡せと言ったのが聞こえないのか」
「いや」
更に目を据わらせ、
「役にも立たない凡人が持つべきものじゃない。さぁ、渡してもらおうか」
「そんなの力のあるなしで決めるもんじゃないでしょ」
そう言った時――――
「力があるかないかで持つ相手を選ばないといけない決まりでもあるのか?」
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