その日の夕方―――

 牧は誰もいない喫煙場所でタバコを手にしたその時、スッと火のついたマッチが差しだされる。それにチラッと見上げると、
「相変わらずだな」
 唐竹だ。

「余計な御世話だ」
 そう言って牧は火をもらい、指にはさんで吸う。

「現場でも見に来たか」

「おぉ。あんな奴でも花ぐらいと思ったら全くだ。よほどあれだったんだな」

 それに灰を落とし、
「親はさぞかしうるさかっただろうな」
 再び吸い、
「それで休みでも取らされたか」
 吹かして唐竹を見上げる。

それに唐竹は動きが止まり、
「ははっ」
 笑い、
「ご明察。まったく連日キーキーと、サルでもあそこまで喚かないし、オウムでもあそこまで同じ事を言わないぞ」

「暇人だな」

「まったくだ」
 ギュっと灰皿に押し当て、もう一本を取り出しながら、
「所でお前、誰か一人に頭突きくらわさなかったか?」
 聞く。

「?」

「なんでもあれ、相当な石頭みたいでな、頭が痛いって言うからレントゲン撮ったんだよ。そしたらヒビが入ってたんだと。で、どうなんだ?」

「行った」
 簡単に答える。デート前日、牧の帰りが遅かったのはそのせいだ。

「え、でも処置・・・・・――――!」

 されていない所を見ると――――

「おいおいおい、冗談よしてくれ。ほんとかよ」

 異常なし。

その夜――――

「ただいまー」
 櫻井が帰ってきた。

「お帰りなさい」

「はい、フライパン」
 紙袋と薄いビニール袋に入った二つを渡す。

「ありがとー♪」
 喜ぶミリィ。それに櫻井はへこんだとされるフライパンに目をやり、
「うわ、ほんとにへこんでる・・・・しかもきれいに」
 引きつった表情をする。

 その後ミリィはご飯の準備にかかる。櫻井が手伝いでいつものように皿を出そうとすると、
「もう一枚出して」
 と要望があったので、
「誰か来るの?」

「えぇ、今日は慎二の友達も来るから」

「ふーん」
 軽く返して言われたとおりに皿を追加する。

 それからしばらくして慎二はいつもの時刻に帰宅。その後ろには唐竹が。
 軽い自己紹介をした後、夕食を取りながら会話をする。

「それより坊や、今日はとっても機嫌がいいわね。何かあったの?」

「それがさ」

『それより何か用ですか?』

『あぁ、そうそう』
 手をポンっと叩き、
『ほら櫻井ちゃんが会いたがってたあのカメラマンがぜひ会いたいって今朝電話があったのよ』

『え、マジですかっ!』

『ほんとよ。でも日程がわからないから保留に』

『大丈夫大丈夫。全然かまいません』

『あらそう。じゃあ携帯番号を教えるわね』

『はいっ』

「あの後、連絡して3日後にその人の家に行くんだ。いまから凄い楽しみなんだよ」

「あらよかったわね」

 それからしばらくして、
「俺は明日から出張で留守にする」
 言ったので、
「え、どれくら」
 聞こうとしたが、
「こんばんはー!」
 田淵侵入。本日二度目の機会を奪われる。そして唐竹に絡んで話をしようとした途端、



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