カッカッカッカッカッ、ボキッ!
カッカッカッカッカッ、ボキッ!
カッカッカッカッカッ、ボキッ!

その日、

カッカッカッカッカッ・・・・・

ボキッ!

 牧の機嫌は最高に悪かった。そこに――――

「いけると思ったんだってばっ!」
 牧の助手。この助手が役に立った事など大学に入ってから見た事もない。それどころか厄介事を引っ提げては教室へ入って
来る。それは――――

「まてコラぁ!」
 借金取り。ではなく、被害者。

 それに教室の学生はヒソヒソ話していた。
「あーあ、またやったのかよ」

「出来もしない癖に、いい年しておとなしくできないのかな」
 呆れた表情で話す。

 それほどの常習性。騒動を起こされても、もはや慣れっこ。何が飛んでこようが驚きもしない。
 それは牧も同じで、横にそれがかすろうとそのまま続ける。この男らしいと言えばらしい。

「またやったんだろ、相手に先に撃たせて後で放つっていう、あれ」

 先制攻撃罪を利用しているのだ。

「レベルが低いくせに高度な技を試そうと人を相手にするからだ。そんなに試したけりゃ射撃場で試射すればいいのに」

 この国には個人個人に技があり、牧の「リバーブレイク」もそれに入る。だが、
「実際にした方がいいんだと」
 レベルが違えば教えてもらっても当然それを使いこなせるはずはなく、

「うわぁ〜!」

 結果、毎度こうして相手に追い回されている。ちなみにレベルはB2(民間レベル)。芳井よりもない。

「何それ。いい迷惑だよね。それで死んだらかなわないよ」

「死んだ人が一人いるみたいよ。なんでも若い女の子。銃を持ってまだ間もなかったらしいわよ。それを悪いとは思ってない
みたいよ。それどころかそれを自慢してるんだって、信じられないわよね」

 ボキッ!

「ねぇ、先生なんか違わない?」

「え」

「なんか違う。だってチョーク何本も折ってるし」

「か、感情的って言う奴・・・・」

 それは大学内での牧はいつも無愛想で話す事も脈絡ない、同僚からも一歩線を引いているので、少し暗い印象で見られている。
 それがボキボキとチョークを折ってるわけだから、不思議がってもおかしくない。

 その発端は――――

 早朝、ゴミ出しをしていた田淵。そこに櫻井がスポーツバックを持って出てきた。田淵の表情を見た途端、

「よぉ」

「・・・・」

「どこに行くんだよこんなに朝早く」

「・・・・・」

「なんだよ、まだ怒ってるのか。悪かったって」

「信用がございません」

 相手をしない。発する言葉は常に棒読み。
 後日聞いたが、あの合成写真は田淵が作ったものだったようだ。
 話す口実によく使う手なのだという。話すなよとは言われたが、その前に二度と相手にしない。

「それよりどこ行くんだよ」

「どうして言わないといけないんですか?」
 そう言って櫻井はマウンテンバイクにまたがり、
「そこ通りますんでどいていただけませんか」

「場所ぐらい」

「通りまーす」
 突っ切ると、
「うわっ」
 それを慌てて避けてしりもちをつく。それに櫻井は舌を出し、再び走らせた。

 それから一時間後――――

「おはよう」
 牧が起床してきた。ミリィが声をかける。

 朝食を置いて向かいに座ったミリィが、
「あ、そうそう。坊やね、今日から一週間海外で仕事だって」
 何気なく言った。

「聞いてないぞ」

「あたしもさっき教えてもらったの。今ごろ空港に向かってると思うわ」

 そのあと即行で電話をかける。そのころ櫻井は、
『べっ、別に知らせる必要ないだろ。ミリィにはちゃんと言って行ったんだからそれでいいじゃん』
 空港へと通じるターミナルにいた。人の声とアナウンスが聞こえる。

『あ、もう乗らないといけないからっ、じゃ』
 軽くあしらわれ、電話を切られる。それが――――

(野郎・・・・!)

 
ボキッ!

 原因。勝手に仕事に出かけていった櫻井の事で機嫌がかなり悪かった。

 そんな状態の牧に相手がガンッと当たり、
「あ、これは」
 牧を見た次の瞬間!

「ひっ!」

 腰を抜かしそうになり、
「す、すいませんでしたっ!」
 みっともない体勢で猛ダッシュして逃げ去った。

「初めて見たような」




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