その頃――――

 部屋を出た牧はある所へと足を進めていた。

 そして軽くノックした後、ガチャとドアを開ける。そこにはあの時、大臣たちを一括して止めた年配の男性が窓越しに外を見ていた。
その音で牧の方へ顔をむけ、向かってくるのと同時に机の方へ向かい、それを背にして立つ。

 机の肩書には、警視総監「氷川総一郎」と刻まれている。つまり――――

 しばらく見つめあう二人。そして――――

「まったく、人を使うとはいい度胸だ」
 あのあとのお咎めはなし。大臣の処罰もなかった。大臣たちは後に真意を知り、逆に感謝された。あのとき総員控えていると
言ったが、実際に控えていたのは国会警察と一課の部下50数名余り。そう思わせるだけの威厳がなせる業である。
 ちなみに唐竹がいつも言っていた「おやっさん」はこの方。庁内では時折りそれで呼ばれる。

「・・・・」

「相変わらずだなその態度は。今まで何をしていた?」

「別に」

 親子。あの時、一を子供のわがままと言ったのは自分の息子だからだ。

 その返答にはぁ〜と呆れ、
「まぁ犯人が捕らえられて何よりだ」
 席を立ち、
「所で、お前は見に行くのか?」
 聞く。意味からして処刑の事だろう。それに、
「いいえ」
 と返され、それに驚くかと思いきや、穏やかな表情で、
「そうか」
 側に来、
「それを聞いて安心した」
 小刻みにうなずき、
「一度は家に顔を見せに来い。下で待っている子と一緒にな」

「・・・・気が向いたら」

「そうしてくれ」
 肩を叩いて通り過ぎた。

その夜・休憩室――――

「いったぁ・・・・」
 沢村は張り薬をはった頬をさする。

 送った後、慎二と唐竹に思いっきり殴り飛ばされたのである。

 あの後、広報課の電話がパンクになるまで鳴った。それは空港で常時待機している報道陣によるもの。
そこに思いっきりサイレン鳴らして突っ込んできたものだから、そうでない人間でもなんだろうと思ってしまう。しかも場所が空港だけあって余計である。
 その事態の収拾に広報課はバタバタとし、当然捜査一課に苦情が飛んできたのは言うまでもなく、送検して帰って来た
唐竹がそれに当たるはめになり、のほほんと帰って来た沢村を殴り飛ばし、始末書を慎二に渡しに行った時には、ワンバウンドするほどの拳をお見舞いされた。

 その痛みが8日経過しているがまだ痛い。かなり力が入っていたと思われる。

「まだ引かないのか」
 唐竹が缶コーヒーを二本持って休憩室へとやって来た。

「引いてませんよ」

「そもそもお前がサイレン鳴らしてぶっ飛ばすからだろうが」
 ヒュッと缶コーヒーを沢村に投げる。
「すいません・・・・」
 受け取ると同時に謝り、
「それより、あともう少しですね」
 腕時計を見る。

「まさか自分が作った断頭台に立たされるとは、あの人も思ってもみなかっただろうな」
 唐竹は壁にもたれて缶を開ける。

「でしょうねぇ。それにしても清水さん、あそこまでおつむがないとは思いませんでしたよ。あのまま引き下がっていれば
助かったのに、まさかぶっぱなすなんて」
 沢村も缶を開け、一口飲む。

「誤認を連チャンでするような奴がしないとは思ってなかったよ。そこまでよければこうもなっていないだろ」
 苦笑する。

 ちなみに、
「ですよねぇ。だって書類整理を急に任されるなんて普通ならなんか疑問持ちますもんね」
 あの書類整理は唐竹が清水対策として用意したもので、万が一にもないが、接触をしないためにした工作によるものである。
それに清水は疑問を感じる事なくしていた。それは時折り、唐竹から伝えられる事があったからだ。 

「だろ」
 
「はぁ〜やっとあのうっとうしいのから解放された」

「これでゆっくりとは行かなくなりましたね。何せ相手は人使いの荒い課長ですから。明日からこき使われますよ」

「その分あいつも動くだろ。それに本来、それが当たり前なんだ。お前、あれでよかったのか」

「いえ」



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