「なぜだっ」
「もし行こうとなさるなら、私は大臣であるあなた方を逮捕せねばなりません。氷川一は3年前、同じ庁内の刑事を一人、射殺しておりま
す。そのスイッチを押そうものなら、それは殺人犯に加担した事になるのです」
「君は作りだされる新しい世界を否定するつもりか!犯罪のない世界なのだ」
「ぞ」と言おうとした時、
「子供のたわごと、わがままに付き合うとは、いい年をして気は確かかっ!そのような世界、私は願い下げだっ!」
言い返されたが、
「構わない行く」
強行で通り過ぎようとした。だが男はそれに慌てることなく冷静に、
「この後ろには100人以上の狗が控えております。はたして逃げられますかな」
「なにっ・・・・!」
「飼い公僕の分際でふざけた真似を!」
横から睨みつけた瞬間、ギッとにらみ返し、軽く息を吸い、
「その飼い狗にはらわたを食いちぎられ、醜態をさらしたくなかったらおとなしくしていろっ!」
一喝!さすがの大臣たちもその気迫に、
「――――っ!」
絶句する。
「――――と、言う事ですので」
パチンと携帯電話を閉じる。それに愕然とする。
「・・・・父さん」
「どうして父さんも母さんもあいつらもみんな邪魔するんだ。なぜみんなわからないっ!兄さんにふさわしいのはこの僕だっ!
わからないから従わせようとしたんだっ!意識を排除しようとしたんだっ!それの何が悪いっ!」
そう言った瞬間、牧は顎で唐竹たちに指示する。茫然としているので引き上げるのはたやすい。距離が延びて行く。だが――――
「いやだっ!」
ハッと我に返って振り切り、
「いやだっ!兄さんっ!悪かった!見ていなかった僕が悪かったっ!もうしないっ!だから」
「・・・・」
それに冷たい視線を向けるだけ。しかし――――
「いやだっ!死に」
再び牧の元へと行った次の瞬間――――
ガっ!
右足の外側で一の左腹部に当て、思いっきりなぎ飛ばした!
一は壁に叩きつけられ、近くにあったものがガラガラとけたたましく音を立てる。
「死にたくない」
言葉を継ぎながらカツカツとやってきて、
「お前が言うのか」
間を開けて向かい立つ。その視線は――――
「少なくとも俺の付きあってきた相手は死にたくないとは言わない。聞いてるだろ」
『死んだ方がマシだ!』
「違うか?言ってみろ」
問うが、
「・・・・兄さん、愛してよ。お願いだから愛してよ。何がいけないの?教えてよ、教え――――」
それに答えることなく、手錠の付いた手を牧に伸ばす。まるで懇願するかの如く。
しかしそれがすれすれの所まで来た時――――
ザっ
「触るなよ」
櫻井が立ちはだかり、
「俺のものなんだから」
睨み下げる。
「このガキ・・・・!」
「おい」
牧は振り向かせ、
「へ?」
バシッ!
「って!何すんだよっ」
二本の指で櫻井の額をはじく。
「何が俺のものだ。偉そうなこと言いやがって。勘違いするなよ。いいか」
顎を掴み、
「お前は一生俺のものだ。覚悟しておけ」
その場で唇を奪った。
その時――――
櫻井の腕の携帯が鳴る。だが今は真っ最中、バンバンと牧を叩いて離させて電話口に出ると、
『櫻井ちゃーん』
「か、掛川さん。どうしたんですか?」
半泣き状態の掛川が出た。
『今どこにいるの?』
どこって・・・・とてもじゃないけど言えません。
「そ、それよりどうしたんですか?」
『海外に一緒に行くはずだったカメラさんがダウンしちゃったのよ〜』
「あぁ・・・・」
この展開は・・・・
『櫻井ちゃん、今日休みだったわよね?』
「そ、そうですけど」
『お願い櫻井ちゃんっ!』
やっぱりそう来たかっ!
「べ、別にいいですけど、それって明日ですか?」
『今よ』
「今っ?!」
『飛行機がね、昼に出るの』
(二時間弱っ!この場所から俺の家に帰って・・・・その前に俺、交通手段ないっ!)
「他の人にはあたったんですか?」
『あたったわよ、――――!あ、もしかしてダメとかいうんじゃないでしょうねっ!』
泣きそうになるので、
「わかりましたよっ!行きますから、泣かないでくださいっ!」
返す。
『あ、そう。じゃあ待ってるわね』
Copyright.(c)2008-2010. yuki sakaki All rights
reserved.