「ま、そういう事で片づけてきた」
 一部始終を話した。

「そうか」

「にしても面白かったですよ。見せてたかったですよ、俺から猛ダッシュで逃げた清水さんを」
 沢村は軽く吹く。

「清水?・・・・あぁ、いたなそんな奴。確かあいつのおかげで主任に引き上げられたんだったな」
 再確認する。

 清水:警視庁捜査一課・第二強行犯人捜査・殺人犯捜査第一係・警部補。主任。銃レベルB1。

「あぁ」
 唐竹が不在の際、それをまとめる・・・・ではなく、勝手にそう思い込んでしている。一自身はそんな事を頼んだ覚えはな
く、清水自身が任命されたからそうしなければいけないと勝手に思い込んでいるだけ。実情は――――

『そう言う事ですので皆さん』

『・・・・』

『おい、なにしけたツラしてんだ。さっさと仕事に戻れ』

『はい』

『・・・・』

『どうした?』

『・・・・いえ』

 まったくまとめられていない。唐竹は不在ではあるものの、電話までしてはいけないと言う決まりはないため、大抵、携帯で
指示をもらっている。それぐらい存在価値がないのである。

 つまり、唐竹が謹慎からすぐ解除されるもう一つの理由として、課内全体の統制である。

 一は課内、いや庁内の人間とは不仲。あの時の状況を見る限り明らかである。
 あの男は本来公僕向きではない。むしろ官僚肌。公務員と官僚には大きな隔たりがある。現にこの男の庁内での評判は不評で、
本来管轄している2課でも芳しくない。渋々付き合っている風が見て取れる。
 二課がそうなら一課などなおで、ただでさえ荒い人種が多い。特に課長直属の唐竹を含めた一係は余計に従わない。
 そしてもう一つ。大した事がない事件は任せてくれるが、大がかりな事件は自分の手一つで片づけてしまう事。
 理由として牧が関わってそうだと思っての事。当然それはない。姿を消した人間がわざわざ出てくるわけがない。
ここまで来ると、頭がいいのか、それとも悪いのか。その信憑性を疑わずにはいられない上、わざわざ課に席を置かずにトップに
なればよかったものを、そうしなかったのは、

『しかも一課の席に座ってるなんて、机を変えるならどうとも思わないけど、そのままなんでしょ?』

 単に、

『あぁ』

『やだ、気持ち悪い。鳥肌が立つわ』

 その席に座りたかっただけのようだ。

 以上の事を踏まえて、信用の厚い唐竹がそれをまとめておかないといけないのは、行事の際とかいざとなった時に機能しな
いのは少しならずも困ると言う事だ。

「よくあんなのが入れたもんだな。あんなのただの使いっぱしりにしかならない。いいかげんよそに飛ばすのを考えていたぐらいだ」

 ちなみに清水はあの時まだ入りたてで、牧と関わった回数が少ないせいか「怖い」という印象しかない。入ったうちの大体
は最初そういう印象を持つが、長くなるうちに沢村のようになる。
 あの件では課内に待機させられ(役に立たないから)ていた。

 そう話した後、沢村が前と同じように携帯プレーヤーをいじり、再び二人に渡す。

 一は怒りを抑えているかのような口調で話す。何が何でも欲しい。執念とは恐ろしいものである。そしてワクチン接種は放
送を流した3日後、その日に完全に閣議決定がなされ――――

「国会での閣議決定後、各省庁の大臣室のスイッチを押せば、この国は事実上あの男のものになる」
 
 あの男はこの国の上に立つ。

「そうなる前にその部屋から一歩も出さなければ済む話だ」

「そうは言ってもだな、それを止める事が出来る人間には限りが――――」

 それによる沈黙。約10秒。

「お前・・・・まさか」
 そのまさか。

「いるんだろ。使えばいい」
 牧が口を開く。

「いや・・・・」
「でも・・・・」
 戸惑う二人。

それに牧はスッと目を開け、
「準備に抜かりはないようにな。抜かりがあれば――――」
 意味深に言葉を止める。その気迫に二人は一瞬、動きを止めたがすぐ、
「・・・・了解しました」
 応えた。



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