「どうしてどいつもこいつもそうして嫌がる。お前みたいに、突きつけられているものがわからないのかっ!力の差がわからないのかっ!

あいつと同じように殺されたいのかっ!」

 それに静止すること数秒――――

「それでもいい」

「・・・だ」

「え」

「あんたに命ごいをするぐらいなら――――」

「最後だ」

「死んだ方がマシだ!」


 引き金に手をかけられた次の瞬間、バン!と音がし、意識が向く。そして驚く。

「牧」 

「兄さん」

「牧」 
そこには牧がおり、何も言わずに櫻井の腰にガっと手を回し、
「うわっ」
抱き上げる。それにすぐさま、
「兄さんっ!」
 牧に近づこうとした瞬間、牧は軸足に力を入れ、その瞬発力で廊下へと出、その勢いで突っ走る!

「兄さんまって!」
 追いかける。だが牧は大幅にリードし、そしてその途中、ホールのあたりで防火サイレンが鳴り、中の人間が慌てて
廊下に出て進路を塞がれる。

 それでも強引に進んだが間に合う事はなく、ただただ、
「兄さん・・・・」
 立ち止まるしかなかった。

 その先にある非常用階段のドアを突き破り、けたたましい音で駈け下りる。そして降り切って櫻井を下すかと思いきや、
そのままゆっくりと崩れ落ちる。上げられた脚から手が抜かれ、それを櫻井の背に回し、ギュッと力の限り抱きしめる。

 冷たくなんかない。
「・・・・うん」
 温かい・・・・脈打つ人の身体。それは――――

「ここに存在る。いるんだよ・・・・」

 生きている証し――――それ以外の何物でもない。
 そして初めてだった。

 誰かの為に死んでも構わないと言ったのは。



Copyright.(c)2008-2010. yuki sakaki All rights reserved.