「パーティか」
「うん」
あの後、一緒にパーティでもどうかと誘われたのだ。とは言っても政治家主催のパーティ。
それに櫻井は躊躇した。そういったパーティは危険が多いと一般的にそう思われている。しかし――――
「護衛に誰か付けますよ」
そう言われて快諾した。
その夜・牧の家―――――
沢村は薄い携帯プレーヤーをいじっていた。
これは沢村が造ったプレーヤー型受信機で、音楽プレーヤーとしての機能もあり、専用ダイヤルをいじればそれが聞けるという仕組み。
たとえそれが他人に渡ったとしても、専用ダイヤルを知らなければただのプレーヤーである。その受信機は櫻井がバレンタインデーにチョコと
一緒に送った万年筆に組み込まれている。
一が最近、万年筆を失くしているのを知っていた唐竹はそれを利用。好みも大体分かるので何日か前に買い、
そこに沢村が組み込んで櫻井に渡したのである。
この国では盗聴が蔓延しており、大体の人間が発見機を所有している。議事堂や公共、各省庁など発見機は設置されてはいるものの、
巡回を回すほどの厳戒態勢を敷いている。そこで沢村の出番。渡した盗聴器はその盗聴発見機にかからない特殊加工を施しているすぐれもの
である。沢村が課イチのハイテクと言われるのはそのためである。
「つながりました」
そう言ってそのプレーヤーを二人に渡し、イヤホンを耳にする。
そこから聞こえるのは人のざわつく声。その声はどこか聞き覚えのある声。
「うお、大臣と普通に話してる」
「国務大臣(国家公安委員長)ともですよ。どうりでゆうずが利くはずですね」
「総理には敬意を払っている。つまり副大臣並みか・・・・ここまでいってるとはな。恐れ入った」
つまりここは国会内ということになる。
この国では政治家と個人の親交は可能で、うまいように利用すれば前に言っていた捜査一課と二課を統括できる権力を与えられる。
ひいては警視庁・警察庁以上の力を有している事にもなり、上手いように使えば、こういった事ができるのである。
「さて、何をお話しするのかな」
腕を組んで聞く体勢に入る。
閣議――――
会議の内容はこうだ。
全国民に今はやっているウイルスのワクチン接種。これは義務なので全員参加させること。
だが、その薬はワクチンではなく、ワクチンと題した「洗脳ウイルス」。
その「洗脳ウイルス」は、人間の思考を止め、規則に準じた働きしか行わないようにする。
そうする事によって、犯罪は起こらなくなり、犯罪に関連する部署の者は「監視員」としての役割に回る。
ワクチンはすでに出来ており、今回はそのワクチンの期日決定の会議ではなく、監視に配置する人員の振り分けの会議である。
この話。普通に聞いていれば「いい話」に聞こえるが、それは相手の表面上しか知らない人間だけで、裏っかわを知っている人間からすれば、
(これは課長が行かない事を計算に入れている。そうすればすぐに見つかる。それに人をそうしてしまえば、人を好きになる事もない。
寄って来る人間はいなくなる。そうすれば自分だけのものになる・・・・か)
こう受け取る。
唐竹は肩が降りるような息を吐き、
(・・・・とうとう全ての人間の意志そのものを殺すか。たった一人の――――)
牧に視線を向け――――
(人間の為に)
そしてパーティ当日――――
櫻井と一、そして唐竹はそのパーティに入る。護衛は運よく唐竹。
一はしばらく一緒にいたが、次第に人が増えてはみごの状態になった。
「すごい、テレビで出ている人が近くにいる」
「そうだな」
あの3年間の埋め合わせの会話での事。
『やはりそうか』
『あぁ、このセブンデイズシステムを作り出したのは他でもない、あの男だ』
『法案がそう簡単に可決されないのは、知ってるだろ。それをすらっと通過させるには、かなりの根回しが必要になる。それをなせると
言う事は、相当な権力を持っていると言う事に他ならない。それはつまり』
意味深に言葉を止める。その続きを、
『次期総理大臣ということ・・・・か』
牧が引き継ぐ。それに、
『過言じゃないな。それにこのシステムは支配する第一段階、足がかりととらえてもいい』
答える。
『土台か。もし今後自分の命に逆らえばどうなるか・・・・・』
『だろうな。次にやろうとする規模は大きいと考えてまず間違いはない』
予想はしていたが、会議内容を聞いた後、
(大きいとは思ってはいたが、あまりに大きすぎるな・・・・)
あまりの規模の大きさに引く。更に唐竹を引かせたのは、
(閣僚の連中が信じ切ってるなんてな)
大臣たちがその話を信じ切っていると言う事。
(おやっさんならふざけるなと言う前に聞きもしないだろうな。これ報告したら、そいつら気は確かかって言いそうだ)
軽く吹く。
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