バーンっ!
「っ!」
牧は勢いよくドアを開けた。その瞬間、誰かが言葉を発すると同時にぶっ飛んだ。よく見て、
いや、よく見なくてもわかる。あのバカモデルだ。
それは出る前の時、
「さぁ勝負の日だっ!聞いて驚くな、僕のは」
あの勝手に挑戦状を叩きつけたおバカモデルが廊下で予行練習をしていた。
そしていよいよ本番を迎えようとしてドアの手をかけた瞬間、練習の甲斐もむなしく打ち倒された。それはそうだ。
(廊下でごちゃごちゃと・・・・うるさい奴だな)
それは廊下で明らかにいますよと言わんばかりの声で練習していたから。
(何がバレンタインだ)
牧の手にはその袋。その袋をチラッと見て薄い息を吐き、
(めんどうなことだ)
そのままスタスタとその場を後にした。
「ミリィちゃーん!」
ふっ飛ばされた田淵が立ちあがってリベンジとばかりに助走をつけて飛んだ。しかし――――
バチンっ!
タイミング良くドアを閉められ、施錠される。
顔面からズルズルと落ちながら、情けない声で、
『チョコ〜』
懇願。
「まだ言ってるぞ。呆れた奴だな」
呆れる唐竹。
「ふんっ。ロクに仕事もこなせない癖に、いいものだけをもらおうなんて、100年早いわ」
そしてその後――――
「じゃ」
唐竹が帰る。
「じゃあ俺も」
櫻井はブレーカーのポケットをゴソゴソとさがす。
「どうしたの?」
「カギなんだけど、あれ、奥に入ったかな」
「一度ポケットの中だしたら?」
「うん」
そう言って全部出す。するとさまざまな物の中から、ウエハースをチョコでコーティングした菓子が出てきた。
「あ、よかったあった」
「よかったわね」
「じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
後にする櫻井。それに牧は置き忘れた菓子を手に取り、
「下手な芝居だな」
「フフッ、いいじゃない」
それから翌月のホワイトデー――――
「遼君っ!」
再びあのバカモデルが何かを持ってやって来た。
「ホワイトデーのプレゼントだっ!」
「は?」
あげてはいないはず。
「君にもらったチョコのお返しにこれを送ろう」
「はい?」
いや・・・・あげてない・・・・はず?
「君の好きなカメラだっ!」
「はぁ?」
(肘鉄が効きすぎて頭がおかしくなったのかな・・・・)
それに再び掛川が、
「ちょっとアンタ、櫻井ちゃんはあげてないでしょ。あげてもいない人に返すなんておかしな事するんじゃないわよ」
食ってかかる。
「いいだろ。それにあげていない人に返してはいけませんとかいう決まりでもあるわけ」
「〜・・・・・!」
憎まれっ子、世にはばかるをモットーにして生きているとしか思えないこの態度。
「それよりも遼君、これを」
差し出されたカメラ。いかにも高そう。だが――――
「いいです。要りません。自分で買いますから」
きっぱり断る。
「え、ちょっ」
その腕には、
「あーっ!なにそれっ!」
新しい腕時計。
「ひょっ・・・・・ひょっとして」
「言わなくてもそうじゃない。彼からよ」
実はあの日、モデルと暴れている間に何かの拍子で時計を壊していた。
『うわぁ、初めてのお給料で買った奴なのに〜』
落ち込む。しかしないのも困るので、別をしていた。
そして今日のホワイトデー、スタジオに来た櫻井がいつものようにカバンを開けた時、その腕時計は出てきた。
(どうしてあいつ自分から渡さないんだ。ミリィの時も)
・・・・
(でもまぁ面と向かって渡すようなタイプでもなさそうだし、普段しない事をやられるとそっちの方が返って気持ちが悪い)
・・・・
(ま、あいつらしいか)
それから日曜日――――
「これ、バレンタインのお返しです」
「わぁ、ありがとう」
そう言うのは、
『おそいバレンタインだけど』
そう言って渡したからだ。
「それより遼子さん。明日、仕事が終わった後は何か予定はありますか?」
「いいえ。それが何か?」
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