PiPiPi

「はいもしもし。あら」

 病院――――

「自業自得ね」

「・・・・」
 怪我は幸い大事には至らず、軽症で済んだ。
 掛川はベッドの横にあるイスに座っている。

「櫻井ちゃんの彼、写真撮られるのが嫌いなんですって。撮るのは奇跡に近いらしいわ。
つまりこれは奇跡の一枚ってわけ。撮ったのはポラロイドで、ネガもないからほんとにそれ一枚しかないの」

 実はあの時――――
『あらそう。じゃあ一番そばにいる櫻井ちゃんが撮れないんじゃわたしたちなんてもっと無理ね』

『・・・・ありますよ』

『えっ?!』
 驚いたがすぐ見たいと櫻井に頼み込み、櫻井も掛川だからということで見せた。

 それはあの、初めて迎えに来た日。
 あのとき牧は机の上に少し乗り、弾を銃に詰めていた。その傍には使い終わった薬莢のカラ。淡い夕焼けの光、
それを受けながら黙って弾を詰めていた。
 それに櫻井は思わずカメラを手にして撮ったのだ。そしてあの後、写真が嫌いだと言われ、今しがた
自分が撮ったのは奇跡だと驚かずにはいられなかった。

「アンタだって好きな芸能人の写真を持ってるじゃない。それにキスされようとしたら
あの時の櫻井ちゃんみたいに何かを振りかざしていたかもしれない。
 例え写真でもされたくない。恋する人をからかってはいけないわ。そんな事してたら、自分の幸せを逃しちゃうわよ」
 その頃、櫻井は病室の廊下をうつむき加減で歩いていた。
 その向かいで何も言わず不安げに見ているスタジオのスタッフ。

 そこに、
「あ、あれ」
「写真の人じゃない」
 牧が来た。ミリィから連絡を受けたのだろう。表情を変えず、カツカツと診察待ちで騒がしいロビーと眼で追うスタッフに
一瞥もくれる事なく通り過ぎ、こちらに向かって歩いてくる櫻井の方に歩を進め続ける。

 櫻井はそのまま歩き、やがてバスっとその身体に当たる。それでも牧は声を出さない。やがて櫻井が牧に抱きついて
今まで抑えてきたものが震えと共に出る。

 それにスッと何も言わず手を回す。

 そこに、
「なんだあの慰め方は」

「あ」
 爆弾被害のモデル。

「なってないなぁ、絶好のチャンスだってのに気づいてないのか。バカだなぁ」

 お前に言われたくない。

「こういう時にキスをして自分の手にだなぁ」
 入りこもうとした瞬間、スタッフに後ろ襟と腕を掴まれ、
「バカなのはあんたよっ!引っ込んでなさいっ!」

 
バキバキゴスゴス!

 袋叩きにされた。

朝――――

「ん・・・・」
 気がついた頃には、櫻井は自室のベッドにいた。

(そっか俺、あの後のったタクシーで寝たんだ)
 その日は短時間で気力を消耗してしまい、タクシーの心地よい揺れで爆睡。今に至る。

(今何時かな・・・・)
 眼をこすりながら時計を見た次の瞬間っ!

「あーっ!」

「やばっ!今日はあの仕事が入ってたんだっ!急がないとっ!」
 ガバッと起き、慌てて、
(着替え着替えっ!)
 と、階段を降りようとした矢先、
「でっ!」
 第一段から踏み外し、ゴロゴロと落ちて顔面着地。

「大丈夫っ!」
 慌てて駆け寄るミリィ。

「ってぇ・・・・」

 それから数日後――――

 この日、櫻井は修学旅行の撮影でテーマパークにいた。あれからはスタジオの仕事を断っていた。

(えー・・・・っと、次は)

「櫻井ちゃーんっ!」

「へっ」
 振り向いた先に大西とスタジオのスタッフが。

「写真返しにきたわよーっ!」

「え・・・・!ちょっ・・・・」

(子供がいるのにーっ!)

 引きつって逃げ出し、それから小一時間、テーマパークを一周したのは言うまでもない。




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