翌日・某スタジオ――――
「おもしろーい」
昼休みの時に話した。掛川はキャッキャッと笑う。しかも吹っ飛ばされた写真付きなので余計。
牧に投げ飛ばされた際、きれいに横切ったそのカメラマンを持っていたカメラの動画モードで撮ったのである。
それを帰ってパソコンに取り込んでアウトした。取り込んだ際、あまりにも見事な線を描いて飛ばされたその姿に
しばらく突っ伏して笑ったのは言うまでもない。
「でもカメラ壊しちゃったんでしょ」
掛川は写真を返す。
「壊したって言ってもズームのレンズにヒビが入った程度ですよ」
「それでもウン十万はするんじゃない?」
両手でほおづえをつく。
「知りませんよ。そんなの持ってきた人が悪いんじゃないですか」
フンっと持っていたコーヒーを飲む。
「不意に撮ればよかったのに」
「ダメですよ。あいつ写真撮られるの嫌いだし、向けた瞬間、確実に潰すと思いますから。撮れる確率は神のみぞ知る領域です」
「あらそう。じゃあ一番そばにいる櫻井ちゃんが撮れないんじゃわたしたちなんてもっと無理ね」
「・・・・」
それから数日後――――
「休憩ー」
(ごっはん、ごっはん)
カバンをゴソゴソして弁当箱を取ろうとした矢先、
(あれ?)
異変に気がつく。
「どうしたの櫻井ちゃーん」
背後から掛川が声をかける。
「いや、ここに入っていた写真がないんですよ。おかしいなぁ」
「あら。じゃあ一緒に探してあげるわ」
掛川も一緒に探すのを手伝う。
「床は見たの?」
「見ました」
「じゃあここに来る間に落としたんじゃ」
「いえ、カメラを取り出した時はありました」
「・・・・ひょっとして」
そう言った矢先、廊下で騒いでいる声がこちらに近づいてきた。
「え?」
掛川が言うことに躊躇しているうちにこちらの部屋に入ってきた。女性スタッフに囲まれた一人のオネェ。
掛川の友人でたまにやってくる大西さん。
「ねぇ櫻井ちゃん」
「はい」
「この写真のひと誰?」
捜していた写真をヒラッと前に差し出される。
「やっぱり・・・・あんたねぇ〜」
脱力する掛川。どうやらこの大西さんは手癖が悪く、人のカバンからよくこうして拝借するのだ。
しかしそれは女性のカバンに限った事なので、櫻井が注意する要因などどこにもない。
なので、急いでいるときは開けたままになっている事もしばしば。
それが今回ターゲットにされたのは――――
「フリーカメラマンだから、違うところもいくでしょ。だから、かわいい女の子の写真があるかなぁっと思っちゃって」
ということ。
「ちょっ!返しっ!」
櫻井はかすめ取ろうとしたが、見事にスカる。
「それで見たら、良いのがあってちょっと拝借したのよ。で、この人」
言いかけていた言葉を、
「返して下さい」
遮る。言っている眼は、
「え」
「返して下さい。大事なものなんです」
真剣そのもの。それに、
「誰か言ったら返してあげる」
少し意地悪をする。
だが櫻井にはその軽い意地悪が通じない。
「お願いしますっ!それだけなんですっ!」
頭を下げるが、
「そんなに大事なら持って来なきゃいいじゃない。女でもあるまいし、バカじゃないの」
と言われ、
ピキッ
「ちょっとアンタっ!言葉が過ぎるわよっ。返してあげなさいよっ!」
それに周りも、
「そ、そうですよ。返して」
「キスしちゃおうかなぁ」
写真に唇が触れようとしたその時!
ゾクッ
「返せって言ってるのが・・・・・」
近くにあった折畳みのパイプいすを振り上げ、
「わからないのかよっ!」
頭に激突させた。奇声が飛ぶ。
「櫻井ちゃんっ!」
「大事な写真を肌身離さず持つ事の、一体なにが悪いんだよっ!」
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