「え?」

「ごめんなさいね、肝心な事を言い忘れてたの」

「はい?」

「あのモデル、ターゲットは男女。恋人の受け側を狙うのよ」

「ちょっ・・・・そう言う事は最初に」

「ごめ〜ん・・・・って、ちょっとまって、そう言うって事は櫻井ちゃん――――」
 しまった墓穴を掘ったっ!思わず顔をそむける。

「櫻井ちゃん・・・・ひょっとして」
 ひょっとせんでもその通り。もう言わざるを得ない。

 いつものように向かい合ってその話を聞いた掛川は、
「へぇそうだったの」
 意外にも反応が薄い。この世界ではありすぎる話でもあるし、自分自身も恋愛対象がそうだからだ。

「い、言わないで下さいよ」

「大丈夫よ、言ったりしないから」
 上品に手の先で口を止める。そして両手でマグを持ちながら、
「そういう話だとわかるわぁ。にしてもあの男、恋愛マナーも悪いけど、口のマナーまでなってないなんて最低だわ。
吸った口でそのままキスするなんて。気の小さい子だったらトラウマになって一生出来なくなるわよ。吸うのは
そっちの勝手だけど、吸わない人の事も考えてほしいわよね」

「いま思い出しても気持ち悪いですよ」

(あれ、そう言えば牧もタバコ吸うよな。けど味が全然)

「どうしたの?」

「いえ、別に」

「にしても」

「はい」

「上がり込んで櫻井ちゃんを助けに来るなんて、いい男ね」

「え・・・・あ、あぁ、そ、そうですね」

その数日後――――

 夕方・大学内、教授室――――

 櫻井はいつものようにカメラをいじりだす。どうやら今日はまた芳井達と外での食事のようだ。

 その時――――

 
バンッ!

 それに応える二人の視線の先には、あの爆発被害を受けたカメラマンがいた。

「あんた一体・・・・!」
 驚いた表情をする櫻井。

「それよりどうしてここがわかったんだよっ!」
 その問いかけに、
「チビカメには関係ない」
 一蹴される。あった時の態度とは大違い。それに櫻井はヒクッと、
「ち、チビと言われるのは仕方ないけど、カメは余計だっ!」
 ガっと歩み寄ると、
「うるさい引っ込んでろっ!俺はその先生に用があるんだ」
立ちはだかる櫻井をガっと押しのけ、それを仕事の手を止めて不機嫌そうに見る牧に、
「先生、お願いがあるんですが」
 机を挟んで切りだした瞬間、
「断る」
 すっぱり。

「ってまだ何も」

「大体分かる。それで撮りたいんだろ。
断る。俺は写真を撮られるのが嫌いなんだ。帰れ」
 そう言ってすぐ仕事の手を進める。それに櫻井は鼻で笑い、
「わかったら帰って家の修理でもしたらどうですか」
 ここぞとばかりに思いっきり皮肉る。

「なんだと!そう言われてはいそうですかと引き下がるか!」

 言い争いになる。だが、
「ね、先生。お願いしますよ」
 すぐ櫻井をそっちのけにし、牧の背後に回って頼み込むが、牧は一切相手にしない。

 数分後――――

「先生、モデルになってみる気ありません?」
 囁かれた次の瞬間!

「るせぇ・・・・」
「えっ」
ガッと片手で胸ぐらを立ち上がると同時に逆手で掴み上げ、
「うわっ」

「出てけっ!」

 開けたままのドアの方に向かって投げ飛ばすっ!

「閉めろ櫻井」

「え」

「閉めろと言ってんだっ!」

「わ、わかったよっ」

 慌ててドアを閉め、施錠する。その外では、
『あーっ!カメラにひびがっ!先生っ!弁償の代わりに一枚っ』

 
バシンっ!

『ったぁ〜・・・・』
 閉められた事に気づかないでドアに激突。

「まだ言ってるよ。はぁーあ。あんなのに憧れてたなんてショック・・・・」
 大きなため息が。それに荒く息を切り、
「帰るぞ」
 席を立ち、カバンを手に取る。

「え・・・・」

 数分後――――

 
バスっ!

「先生っ!・・・・あれ?」
 そこに二人の姿はなかった。

 ちょうどそのころ――――

『え・・・・帰るって。どう帰るんだよ。入り口閉めたのに』
 櫻井がそう言うと、牧は左横にある本棚に手をかけ、障子をあけるようにガラっと開ける。

『えー・・・・』

『何してる。行くぞ』

『う、うん』
 その中へ入っていくと違う空間が。相手はドアの方に意識が行っているので気づくはずもない。

「どこいったーっ!」

 家。




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