「そうだよ。餌はこいつに引っ掛けてもらうのさ。それをいただくわけ」
 そう言ううちにカメラマンがカメラを構える。

「君の尊敬したカメラマンに撮ってもらえるなんて光栄とは思わないか」
 フフっと気味悪く笑う。

「はなせっ!はなっ――――!」
 その瞬間、唇を奪われた。それに

(ヴッ・・・・!)
となる。つい先ほどまで吸っていた煙草のニコチンが口内に入ったからだ。

 ガクンと落ちる感覚。

 それに続いてバクバクと心臓が張り裂けんばかりにうごめき、カタカタと震えが止まらない。

(気持ち悪い・・・・!)
 苦い。今すぐにでも吐きたい。

 そう思っている間にも手は中へと入ろうとしていた。次の瞬間――――

 ガチャっ

 金属音がした。玄関からだ。

「カギをかけ忘れたのか。お前らしくもない」

「いや、ちゃんと」
 そう言うのは、こういった行為の際はロックをしっかりと二錠かけているからだ。

「ちょっと見てくる」

 そう言ってそのカメラマンが行った次の瞬間、ダンっと乗りこんできた牧。カメラマンを押しのけ、奥に入って馬乗りにな
っているモデルを突き飛ばして櫻井を引き上げると、櫻井はむせかえり、震える体で何かを探す。

 それに後ろからミリィが、
「どうしたの坊や?」
 聞いてきた。

「み、水。タバコが口に」
 そう言って再びむせかえる。それにチラッとその元であるタバコに目をやる。

「少し我慢しろ」
 そう言って櫻井を荷物と一緒に担ぎ、背を向けたその時、
「待てよ。誰が返すって言ったよ。僕はまだこいつを落としてない。落とすまで返さないのが僕の」
 立ちはだかったが――――
「っ!」
 絶句する。だが牧は何も話していない。ただ眼だけは違った。

 それに躊躇した時、バンッと壁に剥ぐように飛ばして全身を強打させ、その場を後にした。

 外に出たのち、近くに置いていたハーレーの後部に乗せ、出そうとした矢先、相手側からの攻撃、手榴弾がベランダから下
にいる牧へと投下。だがそれに顔を変えず、持っていたヘルメットでガンっと打って投げ返す。
 その瞬間、ドカンと部屋内で爆発。それを見ずにハーレーを走らせた。

「大丈夫、坊や」
 戻って来るや否や、櫻井は流しに行って水を飲んでは吐きを繰り返す。

「はーっ」
 しばらくして回復し、よろめきながらかろうじてイスに座る。ミリィがタオルを差し出す。

「ありがとう助けてくれて。でもどうしてそうなったのがわかったんだよ」

「あたしが知らせたのよ」

「え」

「この銃は坊やが助けてほしいと思ったらあたしに伝わってその場に飛べるの」
 ガチャと金属音がしたのはミリィが内側からロックを解除した音だ。

「あれ?出張は?」

「その帰りよ。坊やの行く日と帰る日が同じだったの」
 いつだと聞こうとしたらあのおっさんが邪魔してそれっきりだった。

「そ、そうだったんだ」

 翌朝・某スタジオ――――

「おはようございまーす」
 何事もなくやって来た櫻井、そこに、
「櫻井ちゃーん」
 抱きついてこられた。

「わっ!なんですかっ!」

「大丈夫?けがはない?」
 パンパンと身体を叩く。

「は、はい」

「そう、よかったー」
 胸をなでおろしてスッと離す。

「?」

「櫻井ちゃんあの日、遊びに行ったんでしょ。そしたら今日の新聞で爆発したって出てたもんだから心配したのよ。そう言え
ば例のモデルも来てたんですって」

「はい」
 思い出したくもない。

「それでね櫻井ちゃん。あたし謝らないといけない事があるの」



Copyright.(c)2008-2010. yuki sakaki All rights reserved.