ちょうどその頃――――

(おそい・・・・)
 少しいらついた表情で時計を見る牧。場所はデパートのロビー。

 どうしてこんな所にいるかと言うと――――

 前日。牧は珍しく遅い帰宅だった。病院の帰り。

 そこにちょうど櫻井がソファでテレビを見ながら待っていた。

 それはミリィがご飯ぐらい作ってあげると言い、帰宅した後に来てご相伴にあずかっている。
 そうなると田淵も出てきて便乗しようとしたら、熱せられた鉄製のフライ返しで顔面を焼き、
「誰があんたのなんかっ!」
 もう片手のフライパンでこれみよがしにバチコンと張り飛ばした。

 それからいつものように3人でご飯を食べ、ミリィが洗い物をしている傍ら、先ほどまで座っていたソファに座り、
「・・・・なぁ」

「なんだ。早く言え」

 わずかな沈黙の後――――

「明日なんか用事ある?」

 切りだした。


(言いだした奴が遅刻するとはな・・・・!)

「ごっめーん」

「ったく、一体何をやって・・・・――――!」
 牧、固まる。

 フフフフフ フフフフフ〜♪

 なんだあれ。妙にキラキラしていて、パンプス?ヒール?スカート?ストッキング?
 確か男に誘われたんだよな?

 何かの見間違い・・・・――――じゃないっ!

「ごめんごめん」

 謝った次の瞬間!

「・・・・来い」
 おっそろしい声で牧は櫻井の腕を掴んで人気のない通路へと連行。

「お前、まさかそう言った趣味」
 目もとがピクピクする。

「ないないないないっ!断じてないっ!」
 慌てて向かいで腕を組んでいる牧に両手を振る。

「だったらなんだ」

「えー・・・・・実は深いわけが」
 言った途端、更に表情が険しくなり、
「深くない。むしろ浅い・・・・お前またやったんだろ」
 問い詰めた。まるで呼び出した生徒を注意している先生に見える。(じっさい先生ですが)

「・・・・はい」
 ゆっくりとうなづく。こちらは注意を受けている生徒に見える。

 またやったと言うのは、櫻井は翌日の服を洗濯物のそばに置いてしまうのだ。
洗濯は芳井さんがしてくれるので、それを知らない芳井さんはそれも持っていってしまう。きちんと置いておけばわかるが、
そこは男の子。雑に置いているので、櫻井がわかっていても、それを芳井さんがわかるはずもないのだ。

「あれほどするなと言われたんじゃないのか」
それにハーッと呆れる。それに頬をかきかき。

「しかもよりにもよって、全部出しちゃってたんだよね。どうしようかと思ったら去年の忘年会で悪ふざけに使った奴だけが残ってて・・・・・」
 それがこうなる事の詳細。

「ほんっ・・・・とにごめんっ!ふざけたカッコだけど、ふざけてないからっ!」
 平謝りの連打。

「説得力がない」

「・・・・」

「まぁいい。それより・・・・・」

「?」

「足を開くな・・・・!」

「あっ!」

 それから――――

(あー、危なかった。危うくいつものように男子トイレに・・・・)
 胸をなでおろして女子トイレから出てくる櫻井。
(おいまて。俺は男だぞ。危ないわけが・・・・)
 うつむき加減でブツブツ言いながら歩く。

(いや、今日は入ったら、最初は痴女あつかい。検査で女装の変態・・・・・扱い・・・・・!)

 バスっ!

 そして人に当たる。

「あ。わ、わる」
 いつもの言葉が出てきそうになった。思わず引っ込め、
「ご、ごめんなさい」

「いえ」

「失礼します」
 愛想をふりまいてパタパタと通り抜ける。それを目で追いながら振り返る。その時、

PPPPP

 携帯が鳴ったので取り、
『課長、お話したいことが』
「なんだ?」
それに応える。

唐竹は灰皿にタバコを灰皿に押しつけ、
「さて、明日からきっと」
 もらった書類を片手に自分のデスクに戻る。すると、
「相変わらず早いな」
 たたずんで
「うちの冷血課長は」
 鼻で笑った。




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