ある一室――――
向かい合うのは、
「あのね奥さん。何度もいうとおり、息子さんは自分から撃ったんです。先に撃った相手は後の人間に殺されても
文句は言えないのはご存知でしょう。ですからこれになんら事件性はないんです。わかりますか?」
大柄な男性と、
「どうしてですか刑事さん。息子は殺されたんですよ。先に殺して、あの子の銃を使って
偽装してる可能性だってあるじゃないですか」
中年の女性。この話からして、
「それはありませんね。同罪で捕まった4人の証言では、先に撃ったのは
正真正銘、貴方の息子さんです。しかも背を向けた人間に銃を撃っています」
あの助手の母親と言った所だ。つまりここは警察。向かいにいる男はその時の現場担当の刑事なのだろう。
かなりうんざりしている感じがする。それは――――
「その方は大学の方でしょう。その方たちもご存知のはず、その人は誰ですか」
どうやらこの結果に納得がいっておらず、ここ連日、押しかけてきていた。うんざりするのも無理はない。
そう言うのは、後で撃った人間を捜す必要性はないからだ。つまり罪に問われないの
それにとうとう――――
「教えてどうするってんです。先に撃たせて殺すんですか。カバンに入ってるその撃てない銃で」
「え」
「どうせ撃てもしないくせに、そんな上等なもの持って。いざ狙われたときはどうするんだ?
威嚇だけならそんなたいそうなものを持つ必要はない。それとも撃てる自信があるのか」
態度を変え、反撃に出る。
そういった刑事に女性は銃を向けた。それに刑事は驚く事もなく、
「教えてくれないなら、俺を撃つか。いいだろう、それで気が済むならしてくれて結構だ」
パンパンと胸を叩き、
「ここが心臓だ、よぉーく狙えよ。・・・・・撃った瞬間、アンタの頭をぶち抜いてやる」
にらみすえる。それに、
「え・・・・」
呆然とした女性。その瞬間ホルスターから大型ハンドガンを抜き、
「息子に会わせてやろうってんだっ!感謝しろクソババァっ!」
ガチンとセーフティをはずし、
「てめぇを構ってやるほど暇じゃないんだっ!さっさと帰れっ!」
啖呵を切って引き金に手をかけた瞬間、
「ひっ」
あまりの恐ろしさにその女性は逃げ帰った。
そこにたまたまやってきた若い刑事が、
「唐竹係長〜」
ドアを開けた次の瞬間!
「うわっ!」
すっ飛んできた女性をのけぞるように避け、その情けない逃げ方を少し見た後、
「また来てたんですか」
苦笑すると、
「もう来ない」
大型ハンドガンをホルスターに戻す。
唐竹雅俊(35)警視庁捜査一課・第二強行犯人捜査・殺人犯捜査第一係・係長。警部。銃レベルS2(ハイクラス)
「コンラッド・・・・抜いちゃったんですか」
「ここ連日ヒステリーに付き合わされたらこうもなる」
うんざりした息を吐いてすぐタバコを取り出し、マッチで火をつける。
「確かに」
吹き出してクスクス笑う。
「それより沢村、何の用だ」
それにハッとし、
「あ、事件の報告書と処理した銃のリストです」
差し出す。
「おぉ、悪いな」
タバコをくわえてその書類を受け取り、目を通す。
「処理したいほど怖かったんでしょうね」
「銃を見るとその恐怖を思い出すほどか・・・・」
そしてそのままドスッと腰をおろし、足を組んで片方をフラフラさせる。
「もう震えて震えて、頭をけがした人なんてけいれんに近かったですよ」
それにくわえた煙草でフッと笑い――――
「それがどういうものか身で知ったんだろ。本物の殺しはそういうものだと――――
人間、一度やられてみないとわからないからな」
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