「撮ってないだろうな」

「と、撮ってないよ」

「そうか。で、何のようだ」
 ホルスターにグッと入れて弾を片づける。

「よ、よっちゃんがさ、一緒にメシでもどうかって。田淵のおっさんも一緒。電話したってよっちゃん言ってたぞ」

「それは悪かったな」

「集合ここの前にしたから。行かないなら俺だけ行くけど」

「少し待ってろ」

「うん」
 それに櫻井は胸辺りに構えたカメラを見ながら少し悩んでいた。

(どうしよっかな・・・・謝った方がいいのかな。でも牧の奴、聞いても来ないから、もういい・・・・いや・・・・)
 と、顔をあげたその瞬間、櫻井はあるものを見る。それは――――

(あ――――)

 腕を掴んだ時もそうだった。あの時、この男は一瞬ではあるが困った表情をした。そして今も。

(笑った)

 この男は愛想がないわけじゃない。あまりにも愛想がないので、嬉しい楽しいの表情筋がないのかと思った。
 だが違ったのだ。感情を出す時間が極端にない。ほんのわずかなのだ。見失いそうな刹那とも言うべき感情。どうして俺はそ
れを見る事が出来るんだろう。

 櫻井は頭を振り、

 そんな事はどうでもいい。
 牧は怒ってはいない。むしろ自分が来たと言う事が少しながらに嬉しいのだ。

 でもそれでいい。彼は会った時からそうなのだから――――

 カメラを置き、

 ギュッ

 櫻井は牧に抱きついた。時間が静止する。だがしばらくして牧は櫻井の顎に手をやって櫻井の顔を上げる。それに櫻井はジッ
とそらさず目を合わす事、小一時間、
「い、言わずに行って悪かったよ。今度はちゃんと言ってから行く――――」
 言いかけていた口を塞いだ。櫻井はそれにあがなう事なく受け入れる。
 
 そしてその手が服の中へと入ろうとした次の瞬間、野暮な電話がなる。やり過ごそうと思ったが、なかなか鳴り止まない。そ
れどころか櫻井の携帯まで参加しての大合唱。
 それに二人はフツフツフツフツと怒りがこみ上げてくる。そうこんな事をする犯人は、
「おー、来た来た。おっそいぞ」
 田淵。それに二人は何も言わず、ずかずかとやってきて、田淵をぶっとばす。

「てめぇ・・・・限度ってものを知れよな」
「俺のまで鳴らして、なんのつもりだよっ」
「いや、芳井さんもね」
「いいわけすんなっ!どうせよっちゃんの携帯使って大合唱させたんだろっ!」
「わ、悪かったって。ところでなんでそんなに怒って」

「てめぇには関係ないことだっ!」(牧・櫻井)


 翌朝――――

「・・・・っ〜」

 痛い。何がって?腰。腰が痛いんだよ。

 一線って簡単に言うけど、現実は痛い。

 けどそんなに嫌というものではなく、拒絶もせずすんなりとまぁ自然に一線を越えた気がする。

 あの時どうしてとか言った後悔など、もはやどうでもいいような、そんな気もする。

 にしても痛い。今日は仕事がなくてよかった。

 現在、牧の寝室。時間は正午過ぎ。目安の時間に起きたにもかかわらず、あまりの痛さに起きれずにいた。

「坊や、ご飯食べれる?」
 ミリィが心配そうにやってきた。

「・・・・うん」

「じゃあここで一緒に食べましょ」


 それからひと月後の朝――――

「そう言えば坊やが」

「?」

 そのころの櫻井――――

(なんだったかなぁ・・・・)

 飛行機内――――

(なんか忘れているような気が・・・・・)

 チッチッチッ

「やろう・・・・・!」

「あーっ!」

 チーンっ!

『すいませんでした・・・・・』

『てめぇ・・・・帰ってきたらどうなるかわかっているだろうな』(ピリピリ)

『そんなぁ〜・・・・』

 神様、お願いです。時を戻してくれるか、もしくは牧の脳内からその記憶を消してはいただけませんでしょうか。
 お願いです。



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