自分が死ぬ事になったきっかけ。それは――――

 投げ捨てられそうになったバイオリンを救ったから?


 それはある日、まだ自分が生きていた時の事、市役所の廊下を同僚と歩きながら、
「なんでも今年のコンサートには最近話題のピアニストを誘致するらしいぜ」
「へぇ、そうなんですか」
 話していた。

「でもかなり傲慢らしい。条件として自分が弾きたくなるようなバイオリニストを連れて来いだって」

「なんでまた?」

「さぁな。で、それが明日来るらしい。県の大会で優勝した女性バイオリニストを」

 その翌日、そのバイオリニストが来た。その日、自分はたまたまそこを通った。会議室の一室。バイオリンの優しい
音色がする。いい音だなと少し聞き入ってたら、急に、

「ふざけるなっ!」

 怒号がした。それに思わずドアを薄くあけて見てしまった。

「俺はこんな駄音を聞きに来たわけじゃないんだっ!」

 怒鳴りつけたのはピアニストであるその若者。その後ろに母親がいる。

「駄音って・・・・、優勝したバイオリニストですよ」
 その怒号にのけぞる担当職員。 

「うるさいっ!優勝なんて関係ない、俺は自分が弾きたくなるような奴を連れて来いと言ったんだっ!こんな駄音を
聞きに来てないっ!」

 そのバイオリニストはひどいダメ出しに泣いてしまい、そのバイオリンを投げ捨てようとした。それに、
「いけないっ!」
 自分は飛び出して投げそうになったその手を止めた。

「楽器に罪はありませんよ」

 やさしく言い聞かせる。それにバイオリニストはそっと手をおろす。


「誰だよお前」

「さ、佐々木君」

 しまったと思ったが、楽器を投げつけようとした事で身体が勝手に動き、今に至る。

「無断に入ってしまい、申し訳ありません。失礼します」

 だがその部外者である俺に怒るどころか、

「待てよ」

「はい」

「それ、弾いてみろよ」

「は?」

「引けるんだろ、バイオリン。手つきで分かる」
 弾けと言われた。

 それに職員はすかさず、
「は、はい。確かに彼はバイオリンが弾けると履歴書に」
 情報を提示するだが、
「お聞きになるようなものじゃありません。この方よりも遠く及び」
 断ろうとしたが、
「いいから弾けよ」
 言われ、その職員にも、
「佐々木君、何してるんだね、弾きなさい」
 命じられた。この職員は自分よりも上だったので、
「お借りします」
 従って弾いた。


「決まりだ」

「え」

「ここでのコンサートをしてもいい。バイオリンは当然こいつだ。音合わせに付き会ってもらう」

「え、ちょっと」

「佐々木君」

「あんた名前は」

 綾島いつき・17歳。ピアニスト。

「佐々木みのるです」

 佐々木みのる・25歳。市職員。




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