「いいや、みのるだ」
そう言い切る彼に不機嫌な表情で、
「違うと言ってるでしょう。いい加減にしてください」
冷たく言い返す。それに――――
「その人、交通事故で亡くなったんですよ。あいつを助けてね」
「っ!何をするんですか」
肩を掴まれてベンチに寝かされる。その拍子に向かいの手すりに頭をぶつけた。
「あのバカ、ふざけて夜の車道に出たそうで、そこにたまたま大型トラックが突っ込んできて、それを助けて死んだそうです」
「あんたがみのるでないという証拠だよ。そしたらもう近付かない。用はないからな」
「あの人、商店街で育った人で、確か楽器屋さん。その商店街の人たちが葬儀の時にこっぴどく責めたそうでね。
あいつ、称賛される事はあっても、非難された事なんて今の今までなかったんだろ。それからだよ、酒浸りになって
依存症になったのは」
「証拠?わけのわからない事を、いいから離してくださいっ!」
「でもね、俺ぁそれをかわいそうだとは思わないんです。同じ商店街で育ってきた者としてね」
しばらくして、
「大将っ!大変だっ!」
ガラッと若い店員があわてて入って来る。
「なんだうるせぇな、いま取り込み」
「いつきが」
佐々倉はビリっとシャツを裂かれた。
「――――っ!」
その右肩にはあざがある。見られたその瞬間、驚愕な表情をする。だがそれは見られたという驚きとは違った。
「やっぱりみのるじゃねぇか。お前死んでるとか言って芝居したんだな。あいつらとグルになって」
その瞬間ピクっとし、
「みんなを悪く言うなっ!」
声を荒げた。
「そらみろ、そう言えるのはお前が――――!」
そう言いかけた言葉を凄まじい眼で睨み上げる。それにひるんだ次の瞬間、
「おりろ・・・・・降りろと言ってるのが聞こえないのかっ!」
声を荒げ、いつきに掴まれている腕に自信の腕を絡めて掴み、地面に叩き落とす。
即座に身体を起こして荒い呼吸で立ち上がり、
「お前なんかを助けたばっかりに、俺の人生台無しだっ!」
頭を打ってうなっているいつきを掴み上げ、
「責められたのも、依存症になったのも・・・・何もかもみんな俺のせいにして・・・・・!」
そして腹の奥から出すような声で、
「あの時の言葉、忘れたとは言わさない・・・・お前を絶対に許さない・・・・・!」
引くつき、
「佐々倉っ!」
多田が戻ってきた。だが気が付いていない。
「・・・・返せよ」
震える唇を噛み、
「俺の人生返してくれよっ!」
ぶん殴った。
それから――――
「おい。大丈夫か。しっかりしろ」
多田はほほを軽くたたく。
「・・・・はい」
「打ち込んで悪かった。だが」
「いいです。そうしないときっと自分は治まらなかったでしょうから」
先ほどと打って変わって覇気がない。
「そうか・・・・しっかしあの野郎。あーあ、ボタンが弾きちぎれてる。着替えを」
立ちあがる。ここはヘブンズシティ市役所の屋上。この屋上は緊急避難場所になっており、多田は興奮した佐々倉を少し黙らせる
ために腹に打ち込み、身体を抱え病院に連れていくと言ってこの屋上に避難させたのだ。
「多田さん」
「ん」
「俺の人生って一体何だったんでしょうね」
「・・・・すし屋の大将から聞いた」
それに驚く事もなく静かに、
「そうですか」
応えた。
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