「どうりで仕事がうまいわけだ」
「多田さんは何をしてたんですか?営業そうに見えますけど」
多田の方を向く。それに笑って、
「そう見えるだろ」
タバコを地面に落としてもみ消し、
「これがデスクワークだぜ」
2本目を取り出す。
「デスクワーク・・・・・ですか」
考えられない。いや、想像したくない。
「な、驚くだろ。お前はそこに岩みたいに座ってろって、なんかの冗談だと思ったんだけど、ほんとだった。
俺、ジッとしてるの性に合わないんだ」
火をつけて再び吸う。
「でしょうねぇ・・・・・そのがたいで。なにかしてたんですか?」
「あぁ、学生時代にラグビーをな」
「そんな感じしますね」
「まったく、まだまだこれからだってのに、逝くとは思わなかったよ。結婚してなかったのがせめてもの救いか」
心地よい風、流れゆく雲。昼休憩でざわめく人の声。その中にまさかこの世でない人間が居るなど誰が思うだろうか。
多田はタバコの灰を落とし、
「俺さ、このビルより少し高い屋上からダイヴしたんだよ」
「ダイヴ・・・・」
再び口にくわえ、
「好意を持ってた女がいてさ、それが死にそうな顔して屋上の下眺めてたんだよ。
もし止めて話しでも聞けばきっとなんて思っちゃってさ、でもそうなる前にいなくなったら困るだろ。それで走って
行ったら、その途中で場所を移動したもんだから・・・・・」
タバコの煙がその溜息の大きさを教えてくれる。
「自分が落ちたんですか」
こっくり。
「あぁ。勢いつけすぎてな」
こっくり。
多田民雄。死因:高層ビルから落下。転落死。享年33。現在:ヘブンズシティ市役所市民課・外交員。
「ですよね」
「あ」
「だって人生エンジョイしてそうな人が、急に死にたいとは思いませんからね」
それにタバコをつまんでハハハと笑い、
「でも俺だけじゃないだろ。外ヶ内は通勤途中の歩道で工事中の鉄骨が落ちてきて轢死。真田の奴は踏切に車が入って
しまってそのまま吹っ飛ばされて車内で死亡」
タバコを再び地面に捨ててもみ消し、
「お前もそうなんだろ、確か交通事故か」
持っていた箱とライターをポケットに戻す。
「はい。深夜に大型トラックにガツンと行きましてね。そのまま」
佐々倉みのる。死因:大型トラックに接触。享年25。現在:ヘブンズシティ市役所市民課・外交員。
「以外だよな」
「え」
それに多田の方を向く。
「交通ルール守ってるやつがそんな死に方するのが不思議だなぁって。だってさっきも歩道の点滅信号でも止まったし、
青になってもいったん止まってから行ったし」
「あれはたまに無視して飛んでくるのがあるからです」
「だから不思議なんだよ。そこまで厳守してる奴が交通事故で死ぬのは」
疑問を投げかけるが、佐々倉はだんまりしたので、
「まぁ、言いたくない事もあるか」
空を見上げた。
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