翌日――――

 多田が無理やり佐々倉を連れてきた。
「悪かった。本当に悪かったっ!」
 土下座して謝るいつきに佐々倉は冷たく、
「いいですよ、今後一切あわないで下さい」
 そっけなく返した。

「謝りついでに頼みがある」

「?」

「俺と一緒に演奏してくれないか」

 それに呆れ、
「冗談じゃない。誰が貴方となんか。さっきも言ったじゃないですか、今後一切会わないでほしいと」
 断る。

「一度だけでいいんだっ!みのる・・・・・!佐々倉さんっ!お願いしますっ!」
 必死に頼み込むが、佐々倉の冷ややかな表情が変わることなく、それに何も言わず立ち去った。

 それからいつきは父親に頼んでピアノがある店を頼んだ。仕事が終わればすぐピアノにむかい、手の震えと戦いながら練習する。
休みの日は病院へと行き薬をもらってはまたピアノに向かい合う。

 
 
今はそれが許せないかもしれない。でも私はねこう思ってるんだよ、

(くそ、手が)

 長いブランク。思うように音が弾けない。それに震えまで追加され、ますます弾きずらい。

 悔しい、情けない。

 私たちの時は止まっている。けど生きている人たちは動き続けている。

(っ)

 
いつか、それに気づいて報いてくれるのではないかとね。時間はいくらかかっても構わない。

「くそっ!」

 鍵盤を叩こうとしたその手を、ガっと後ろから誰かが止めた。

「だめですよ」

 振り向く。

「楽器に罪はないんですから」

 
だって私たちは、それを待てるだけの時間を持っているのだから

 佐々倉だった。その手にはバイオリン。


 そして手を放し、少し離れた場所でバイオリンをスッと構えた。





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