それから一カ月後、ある人を呼んだ。それはみのるの父。

 それに佐々倉は驚くが、ピアノが鳴りだしたので構えて弾いた。

 同調するハーモニー、それをただ穏やかに聞く父。

「音色がまるであの子が弾いてるような音がするね」

「――――!」

 届いた。

 店から出ていつきは考えていた。聞こえない音が聞こえるような事が出来ないかどうかと。
 そして思いついた。自分の音色を乗せる。つまり同調させればひょっとしたら聞こえるかもしれない。

 頼み込んだあのとき、父の名を伏せたのは、父親の為ならばと無理やり合わせる事を考えての事だった。
 無理やりでは音が合わないどころか不協和音になりかねないと考えたからだ。


「ありがとう」

 感謝を述べた父が帰った後、座ってバイオリンをケースにパチンと入れ、向かいに立っているいつきを優しい笑みで
見上げる。電話口で楽しそうに話していた佐々倉の表情が今自分に向けられている。

「ありがとう」

 そう言ってケースをその場に置き、すこし茫然としている彼の肩を掴んで目を閉じ、軽く口づけをする。

 そしてすぐ離れて背を向け、バイオリンを手にし、
「なるべく早くは来るなよ。ちゃんと生きて、それからおいで」
 わずかな側面に見える赤い筋。

 その場を立ち去ろうとする彼の背に、
「・・・・佐々倉さん」
 声をかける。それに歩いたまま、
「みのるでいい。じゃあ――――」
 軽く手を上げた。




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