「ん?どうした?」

「・・・・別に」

「その後は違う人をあてがうし。じゃ、そう言う事でよろしく」

「・・・・はい」

 その後、二人で廊下を並んで歩きながら、
「外ヶ内はいつもの事だけど、真田の奴はどうしたんだろうな」
「えぇ、昨日までそんな事はなかったんですが」
「酒場にいた時はピンピンしてたのにな」
 何気に話す。だがそこにひっかかるキーワード。

「酒場?」
 少し見上げて復唱する。それに視線だけを向け、
「あぁ、外ヶ内だけでもと思ったんだけど、そこに真田もたまたまいたからさ、連れて行ったんだ。
あいつらビールのコップ4杯でダウンするなんて、相当だめだな。特に真田は」
 呆れた表情でお手上げのフリをする。

「真田は平均ですよ。コップ4杯なら全く・・・・・」
 それに何かを察した。

「多田さん」
「ん?」

「貴方のコップ4杯ってどういう意味ですか?」
 見上げて聞く。

「大」

 それに青筋が立って引きつる。

「そんなの誰でも倒れるに決まってるじゃないですか。大ジョッキ四・・・・・四って・・・・・」

 毎回、外ヶ内さんが倒れる理由がそれで分かった。

「大したことないだろ」

「それは多田さんにとっては大したことじゃないんです。自分を基準に考えないでください。普通なら」

「普通なら」
 復唱する。

「普通なら・・・・」

その後――――

「えっと、ここに。はい。ありがとうございます」
 書類を受け取る。
「手続きの方はこれで完了です。ご連絡は少し遅くなりますが、必ず入れますので、はい。
それでは失礼いたします」

「ねぇおじいちゃん。あの人たちと何を話してたの?
市役所の人?変なこと言わないでよ。市役所の人がわざわざ来るわけないでしょ。役人は手紙で済ますのが
普通なんだから。わざわざ来るのは詐欺っていうの。銀行の番号とか教えなかった?」


 昼――――
 
「普通なら瀕死になるよな、アルコール依存症で」

ビルの屋上――――

 鉄のフェンスにもたれかかる。佐々倉は腕を置いて前を見、多田は背もたれになり、
背広からタバコを取り出して火をつけ、その箱とライター二つを左手に持ち、
「でもそうならないのは、俺たちがこの世の人間でないから・・・・・だろ」
 空いてる手でふかす。

「・・・・そうです」

 そう、自分たちは死んだ人間。酔って気分が悪くなる事があったとしても、数日もすれば治る。
それが生きてる人間との違い。

「いやまさか死んでまで仕事をさせられるとは思わなかったな」

 その死んだ自分たちがしている仕事は住民登録。つまり死後の住民登録。いわゆるお役所仕事。
 しかし、死後の世界とこの世とのつながりなどあるはずもなく、職員自ら出向いて手続きをしなければいけない。

 名称はヘブンズシティ市役所・市民課、外交員。

 毎日何百人もの人が生まれ、何百人もの人が死ぬ。選定する人間は選定だけしかしない。そうなると
住民登録をする市民課の窓口が混線する恐れがある。書類の不備にもなりかねない。不慮の者はどうしようもないが、
期限が近付いている人間、いわゆる生前の人間にあらかじめ手続きをしておけばすぐにあの街の住人になる。
目印としてのその人間は白く光っている。

 そこでは自殺者、犯罪者は振り落とされる。そこにいるのは長寿を全うした人間、また不慮の事故でなくなったもの。
若さと少しあいまいな点はあるが、自分が住んでいる街はまさにその選定された人間となる。つまりあの街は天国と言う事。

 そこから職員となる人間も選定し、二人一組でその任に当たる。市民課は主に動いている部署と言っていい。


「なぁ佐々倉って前は何の仕事してたんだよ?」

「今と同じ仕事ですよ」




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