「あの子のバイオリンは音楽のわからない人でももう一度聞きたいと言う。穏やかで優しい音がそうさせるんだろうね」
そうだ、あの穏やかで優しい音色。亡き祖母が弾いていた音色。その音がもう一度聞きたくて、誘致される時は
事あるごとにバイオリニストを条件として入れた。そしてみのるがそれにはまった。
奏でる音色はその人の心を表す。穏やかで優しい音色。穏やかで優しい。その暖かみにもう一度ふれたくて。
だがみのるはそっけなくすぐに帰る。
だが、電話の時は全く違った。
「女か?」
「そうですよ」
役人だけあってこれも仕事と思っていたんだろう。事務口調で返してくる。自分はないがしろに近いぐらい何一つ
相手にしない。いら立ちが募る。俺はあぁなのに、あの電話口で楽しそうに話している相手の女に妬き、あいつにかみついた。
それが、
「っ・・・・ひっく」
あのとき泣いていた少女である事に気がつかないで。コンサートだけの付き合いだからそう言っているだけかも
しれないと、どうしてあのとき思えなかったのだろう――――
「俺の人生返してくれよっ!」
やりたい事がたくさんあったみのるの夢を。その人生を潰した。
何も出来なくさせてしまった。
もし俺と会わなければ、みのるは生きていたかもしれない。
「もし許されるなら、もう一度聞きたいね、あの子のバイオリンを」
バイオリンをこの父親にずっと聞かせる事が出来たかもしれない。
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