商店街内を歩いているいつきの前に、
「よぉ」
 多田が片手をポケットに入れて立ちはだかる。

「ちょっと付き合えよ。大将には許可取ってあるから」
 手で横に来いと指示する。その指示通りにしたがい一緒に並んで歩く。

「あんたたち」
「おっと、俺の口からは言えない。罰せられるんでな」
「・・・・やっぱりみのる死んでるんだ。そりゃそうだよな、あんなトラックに吹っ飛ばされて生きてたらおかしいし、葬儀なんて
趣味の悪い芝居やるわけないよな」

「今日はやけにおとなしいな」

「あのあと大将に怒られたんだよ」
 それにそっかと返し、
「なぁ佐々倉がどうしてお前に対してあんなに怒ってるかわかるか?」
 問いかける。

「押し倒したから」

「違う」
 問答を続け、
「あのなぁ」
 最終、多田が呆れる。アルコールは頭まで侵すのかと言った佐々倉の言葉はあながち間違ってはいないと思えた。

 それにこれではいつまでも答えが出そうにないので、
「全てを亡き自分のせいにしてるからだ。自分は悪くない、悪いのは勝手に助けて死んだ佐々倉のせいだって。
そう言って逃げてんだ、自分から、そうだろ?」
 正解を出す。

「ちが」
 否定する言葉を、
「葬儀でそこの商店街の連中に責められたのもあいつのせい」

「ちがっ」

「それに対して酒に逃げて依存症になったのもあいつのせい」
 聞き入れずそのまま話を続ける。

「それでピアノが弾けなくなったのもあいつのせい」

「違う!」
 反論して多田の前に立ちはだかる。それに多田は珍しく真顔で、
「人間てのはな正直な生き物で、腹が減ってないと言いながら腹が鳴る。それと同じだ」
 低い声で言う。

「こんなくだらない者の為に死んだなんて、無駄死にもいいとこ。それに対して腹がきてもおかしくない」
 胸ぐらをつかみ、
「目が覚めた時、告げられた言葉に希望なんてない。さすがの俺でもしばらくは参ったよ。あの一言だけでも
嫌なくらい意味がわかる」

 そこで一旦あいだを置き、
「それを知った時の絶望は計り知れない。ただでさえどん底なのにそれに拍車をかけるような事を」
 軽く息を吸い、
「てめぇが言ったんだろっ!したんだろっ!違うかっ!」
 怒鳴りつけ、バンッと掴んでいた手でいつきの胸を叩きつけ、横に並ばせると同時に放して再び並び歩く。


 そしてきたのは公園。そこのある一点を指さす。広場のそのベンチに座る初老の男性。その少し後ろに佐々倉はいた。

 バイオリンをケースから出し、それを構える。


「あいつは5年もの間バイオリンを弾かなかった・・・・・それはもう――――」




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