はっきり言っておけばよかったのか?
コンサート期日まであと何日か迫ってきた頃――――
ピピッとアラームをセットした携帯が鳴る。
「今日はここまでですね」
そう言っていつものようにバイオリンをケースに戻したその時、アラームとは違う音が鳴る。
「もしもし。あ、こんばんはどうしたの?ん?一緒にご飯。許可は取ったの?それならいいよ。一緒に食べようね。
じゃあすぐに帰るから」
電話を切ると、
「女か?」
聞かれたので、
「そうですよ」
そう返した。確かに女であることには間違いはない。まだ女性と言うには遠すぎる少女ではあるが。
あの時は、
(コンサートまでの付き合いだ。詳しく言う必要はないだろう)
そう判断したためだった。
コンサート前日――――
「おい」
今度は不機嫌そうに呼び止められた。明日に迫ったコンサートにさすがにピリピリ来ているのかと思った。
「なんですか」
「何も毎日決まった時間に帰らなくてもいいだろ」
上から目線で言われる。最初はなんでこんな子供にとカチンと来たが、これは仕事だと言い聞かせ、今に至る。
「たまにはメシでも付き合えよ」
なので、それ以外をする気などまったくない。
「結構です」
バチンとケースを閉める。
それにけたけた笑って、
「お前もあれか、ありきたりでつまらない幸せを見てるのか。仕事して結婚して子供をつくって」
冷やかすが、
「そうですよ、いけませんか」
愛想もなくスパッと話しを切り、取っ手に手をかけようとした時、手を掴まれた。
「なんですか?離してください。帰りま・・・・・――――って何を!」
「ここの音合わせもしようじゃないか」
「やめてくださいっ!」
その瞬間、内掛けをかけられ、床にたたきつけられる。
「っ」
「ありきたりでつまらない幸せなんて見ないでさ、俺と一緒にいい夢みようぜ・・・・みのる」
そう言って片側のシャツを破られ、
「・・・・っ!」
そこにかみつかれる。あざはこの時の。いま思い出しても痛くてたまらない。
(冗談じゃない・・・・・俺は・・・・・俺は・・・・!)
その瞬間、ガっといつきの胸ぐらを掴み、反抗心むきだしの表情で、
「ありきたりな幸せを望んで何が悪いっ!」
引き寄せるや否やガンッと頭突きを食らわせてなぎ飛ばし、荷物を持って出て行った。
Copyright.(c)2008-2009. yuki sakaki All rights
reserved.