それから片付けを終えた惣菜屋の奥さんは帰り、その後、居間でもらったおかずを取り分け、向かい合うように座る。
「全く父さんは、あれだけ作るなと何度も何度も」
話そうとすると、
「あぁ、あぁ悪かった悪かった」
すぐに遮る。
このような父だから親子ケンカなどやるだけ無駄だからだ。
それはケンカをしたはずなのに、父はその数時間後には忘れている。やったと思っていた自分がなぜか浮いてる
みたいでなんだかバカバカしくなるからだ。
それに呆れた息をつき、
「あ、そうだ父さん。最近話題に上がってるあのピアニスト」
話題を振る。
「あぁ、お前の市役所が誘致してるらしいな。それがどうかしたのか」
気まずそうに、
「それに選ばれたんだよ・・・・・不本意だけど。音合わせにいかないといけない」
事のあらましを告げる。
「じゃあ帰りは遅くなるな」
「少しだけ。でも、この時間には帰るって条件をつけた」
あの後、再度ことわったが頼み込んでこられ、この時間だけならいいと言う条件を提示。こんな下っ端職員の
条件など飲んでくれないと思い、試しに言ってみた所、
「良く飲んでくれたな」
承諾された。
「弾かないよりはいいと思ったんだろ」
それに“まさか”と言った自分が驚いたのは言うまでもない。
「帰宅・・・・無理しなくていいんだぞ」
箸を持ったまま父が言う。それにみのるはおかずを挟み、
「無理なんかしてないよ。これが俺の生活なんだし。帰るたびに食べ物爆発させられても困るし」
口に入れて頬張る。
「させないよ」
「味噌汁を爆発させた人に信用性はなし」
そう言って惣菜屋の奥さんが作り直してくれた味噌汁を飲む。
「ひどいなぁ」
「ほんとだろ。今度はカレーでも爆発させたらメシどころの問題じゃない。それより次の日曜、どこ行くか決めた?」
「あぁ」
朝――――
「行ってきます」
「いってらっしゃい。気をつけてな」
その背に手を振る父。
家は看板に書いてある通り、“佐々木楽器店”商店街のちょうど中間にある。
その周りには商店街ではおなじみの八百屋。ちょうど向かい側にあり、
「ちゃんと前見てこげよ。タバコ屋のばぁさんがいつどこで出てくるかわかんねぇから」
朝市で仕入れた野菜を持って声をかける。
「わかってるって」
バイオリンのケースを片手で背負い、人の多い道を飛ばす。横断歩道に差し掛かり、渡ろうとする小学生の列に、
「あ、お兄ちゃん」
少女がいた。
「おはよう」
「あ、バイオリン」
「お友達に聞きたいと言われてね」
「お兄ちゃんのバイオリンあたし好き、また聞かせてね」
「あぁいいよ。それより帰りはしばらく少し遅くなるから、待ってなくていいよ」
「わかった。けど、なるべく早く帰って来てね」
「あぁ、じゃあね」
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