「〜っ。おはようございます」
「お前きのう電話に出なかったろ」
「どうせ飲みに行く話だったんでしょう。一人で行って下さいよ」
「お前さいきんあれだな。そう言った事が多」
その半ばに察し、ニヤニヤして、
「お前ひょっとして」
覗き込むと、ぷいとそっぽを向き、
「いけませんか」
咳払いをする。
「べっつに〜」
その後――――
「じゃあ――――」
「またくるよ」
そう言って立ち去った。それからはたまに行ったりしてバイオリンを弾く。そこには時折り父も来る。
親交してしまった人間にはもはや見えない。それはいつきとて同じ。
あの後、あの男の目から自分の姿は見えなくなってしまった。だが、来た事がわかるように近くにシャンパンの
入ったグラスを置いている。飲めばいる、あれば来てない。
それからいつきの名声は徐々に戻ったが、それでもいつきはその場所でピアノを弾き続けている。目に見えぬ自分の隣で。
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